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血液脳関門を通過できない物質 できる物質とは?

血液脳関門を通過できない物質

血液脳関門は血液が脳に向かう際にある関門です。血液脳関門があることで血液に含まれる物質がなんでもかんでも脳に運ばれないようにバリアする働きがあります。

血液脳関門とは?

血液脳関門 (Blood Brain Barrier : BBB)は1913年に初めて報告されました。血液に含まれる物質が脳にだけ蓄積しないことを発見したことがきっかけで見つかったようです。

血液脳関門は体を循環する血液と脳の環境を隔てる障壁として存在しています。血液脳関門の存在によって薬物が脳に届かないことが問題になります。

中枢神経系の環境を維持するために、血液脳関門が必要な物質か、不要な物質かを判断して受け渡しています。
血液脳関門というと血管を隔てる門のようなものが存在するようなイメージが持たれますが、実際は脳に存在する細胞(ニューロンやグリア細胞など)を覆うように毛細血管が網目のように張り巡らされており、その血管を構成する脳毛細血管内皮細胞が血液脳関門としての役割を果たしています。

これではあまりイメージがわかないかもしれません。通常の毛細血管は内皮細胞の隙間が空いているので、細胞間隙を介した物質の透過が起きます(毛細血管の内部から物質が外に滲み出る)。しかし、脳毛細血管内皮細胞は緻密に密着しているため、このような細胞の隙間は無く、物質の透過が起こらないようになっています。もしも物質が血管の外側(脳細胞)に透過したい場合はトランスポーターなど専用のシステムを使う必要があります。
これが血液脳関門の正体です。

血液脳関門が脂溶性物質を透過しやすい理由

血液脳関門は細胞が障壁になっています。それはつまり、細胞を隔てている細胞膜「脂質二重膜」が血液脳関門の「障壁」であるということを意味します。したがって、脂溶性の高い化合物は脂質膜を貫通できるので、血液脳関門は脂溶性物質は透過しやすいです。親水性物質が血液脳関門を突破しにくいのは、脂質膜を通過することが難しいからです。


血液脳関門を通過できる物質はどんなもの?

血液脳関門を通過できるものは基本的に脂溶性物質です。

極性物質の通過は難しく、水のような小分子化合物でないと密な細胞間隙を通過できません。基本的に後述するトランスポーターを介して脳に移行します。

脂溶性物質は、分子量が500 g/mol以下でlogPが2くらいで、水素結合数が10未満であるという条件付きで通過できます

基本的に脳で必要とされる糖やアミノ酸といった物質はトランスポーターを介して脳に輸送されます。

極性表面積、水素結合ドナー数・アクセプター数、酸性度、イオン化ポテンシャルなどがあります。

血液脳関門で物質の受け渡しに関与するシステム

トランスポーター

トランスポーターは血管内皮細胞に発現し、物質の受け渡しを行うタンパク質です。トランスポーターが脳に必要な物質の一部を受け取って脳内に輸送します。グルコースやアミノ酸、ヌクレオチドなどはトランスポーターを介して脳に輸送されます。

グルコーストランスポーター

グルコーストランスポーター (GLUT)はグルコースを輸送するタンパク質で血液脳関門にはGLUT1が発現しています。GLUT1はインスリンが無くてもグルコースを取り込む性質があります。逆に脂肪細胞や筋肉にあるGLUT4はインスリンがあるとグルコースを取り込みます。

BBBに取り込まれたニューロンの糖代謝は、アストロサイトで解糖系により生成した乳酸をモノカルボン酸トランスポーターにより取り込んでTCA回路で代謝する経路(ANLSH アストロサイトーニューロン乳酸シャトル仮説)が提唱されています。この経路ではニューロンが糖を直接代謝するよりも素早くATPを獲得できます。(糖の全てがこの経路で代謝されるわけではない)

クレアチンの供給

脳のエネルギー源としてはATPは不可欠です。良く脳のエネルギー源は糖だけだと言われますが、脳へのエネルギー供給をストップさせないためにも糖だけではなく、重要なエネルギー保管源であるクレアチンリン酸が脳にも必要です。

実際にエネルギーを大量に消費する骨格筋ではクレアチンリン酸はATPの供給源として重要です。

脳においてもクレアチンリン酸は血中の200倍もの濃度で存在しています。しかしクレアチンは下図の通り水溶性の高い化合物です。

クレアチンの構造

こめやん

この構造だと極性が高すぎてBBBは通過できないですよね?

血液脳関門ではこのクレアチンリン酸の原料であるクレアチンを輸送するシステムが存在し、脳へのクレアチン供給を担っています。脳へのクレアチン輸送は血中クレアチン濃度が上昇すると増加する可能性があり、クレアチンの神経保護作用があることからも注目されています。

クレアチンは脳内でも合成可能で、グリア細胞で作られているようです。

トランスサイトーシス

トランスサイトーシスはタンパク質などの高分子を輸送するシステムです。標的の高分子が細胞膜表面の受容体と結合し、エンドサイトーシスによって血管内皮細胞内に取り込まれ、細胞外にエキソサイトーシスされます。トランスサイトーシスは血管から脳内、脳内から血管への双方向に輸送が可能です。

トランスサイトーシスには受容体を介する受容体介在性トランスサイトーシスと、細胞膜上に吸着して起こる吸着性トランスサイトーシスの二種類があります。

受容体介在性トランスサイトーシスによって輸送されるのはトランスフェリンやインスリンなどがあります。一方で吸着性トランスサイトーシスは負電荷である細胞表面に吸着するカチオン性のタンパク質、アルギニン等のカチオン性アミノ酸が豊富にある膜透過性ペプチド(CPPs)があります。

トランスフェリン受容体

トランスフェリン受容体は膜貫通型の糖タンパク質です。トランスフェリン受容体のリガンドであるトランスフェリンは血漿中に含まれるタンパク質で鉄イオンと結合することにより、トランスフェリン受容体を介して鉄の輸送を行っています。

トランスフェリン受容体は薬物を血液脳関門を通過させるためにしばしば利用されます。トランスフェリンに輸送したい物質を結合させたり、トランスフェリン受容体に対する抗体を利用するほう法があります。

同様の用途としてインシュリン受容体も利用されます。


深層学習を利用して血液脳関門を通過できる医薬品を予測?

どのような物質が血液脳関門を通過できるか?を予測するのは様々な物理・化学的性質から総合的に考えてみるしか方法が有りませんでした。

そこで、これまでに報告されている基地の医薬品プロパティを使って機械学習を利用することによって、候補物質が血液脳関門を通過できるかを予測しました。

2019年にScientific Reportsより深層学習を利用した血液脳関門を透過する物質の予測法の開発を行った論文が投稿されました。

Rui Miao, et al, “Improved Classification of Blood-Brain-Barrier Drugs Using Deep Learning, ” Scientific Reports, 9, 8802 (2019)

この論文のマルチコアSVM法で構築された機械学習モデルは既存の方法と比べて優れたパフォーマンスを発揮しました。

平均制度は0.97, AUC 0.98, FI scoreは0.92であり、透過性予測精度は大幅に向上しています。

参考文献

  • 高橋愼一. “ニューロンとアストロサイトのエネルギー代謝.” 脳循環代謝 21 (2010): 11-16.
  • 立川正憲, and 寺崎哲也. “脳内エネルギー代謝における: 血液脳関門トランスポーターの生理的役割.” 化学と生物 43.3 (2005): 166-171.
  • 大見和宏. “血液脳関門に関する最新の知見.” Organ Biology 20.1 (2013): 36-44.
  • 亀井敬泰, and 武田真莉子. “バイオ薬物脳内デリバリー研究の最新動向.” Drug Delivery System 28.4 (2013): 287-299.

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