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アルツハイマー病の原因物質と医薬品

アルツハイマー病

アルツハイマー病は、1906年にドイツの精神科医アロイ・アルツハイマーによって初めて報告されました。54歳で死亡した女性の認知症患者を解剖しとところ、脳が著しく萎縮していることを発見しました。アルツハイマー病が発症すると、記憶力、方向感覚、言葉やコミュニケーション能力、判断力、志向能力のどれもが著しく低下します。患者に関しても物忘れが激しい、俳諧するなども知られていますが、それだけでなく危険な行為(道路を逆走など)や人に対して暴力的になるなど人身事故や事件につながることもあります。


アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病が発症すると、脳の神経細胞が著しく死滅して能はスカスカの状態になります。実際に、もともと約1400gある脳の重さは、アルツハイマー病患者では約800gまで軽くなってしまいます。つまり脳の約40%に当たる神経細胞が死滅し、その死滅は前頭葉、頭頂葉、側頭葉といった能の大脳皮質や記憶と学習をつかさどる海馬という箇所で著しいことが死亡解剖やMRIで明らかとなっています。

神経原繊維変化と老人斑

このような患者の脳を詳しく調べてみると、神経原繊維変化と老人斑という二つの病変が見られました。神経原繊維変化とは、神経細胞の内部にできる異常で、タウと呼ばれるたんぱく質にたくさんのリン酸が付着する現象のことです。

老人斑は、およそ40個程度のアミノ酸からなるアミロイドβというペプチド(小さいタンパク質)が、脳内に蓄積することで起きます。

この二つの病変のうちどちらが原因で、どちらが結果というのは完全に結論づけられてはいませんが、現在の研究ではアミロイドβが原因の中心として考えられています。このようなアミロイドβの蓄積による老人斑がアルツハイマー病の原因という仮説のことを「アミロイド仮説」と呼びます。

アルツハイマー病に対する医薬品

現在の所、アルツハイマー病の抜本的な治療法はまだ開発されていません。しかしながら、アルツハイマー病によって引き起こされる記憶や学習障害などを少しでも遅らせて、患者の症状を改善するための対症療法としての医薬品がいくつか用いられています。

アセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤

アルツハイマー病患者の脳においては、記憶、学習、認識に関わっている海馬においてアセチルコリンの量が少なくなっていることが分かっています。ですので、アセチルコリンの量が少なくならないようにすれば少しでも症状を改善できます。

神経細胞に存在するアセチルコリンは、受容体への結合に向かう際に、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)という酵素によってコリンと酢酸に分解されます。このACEの働きを妨げることができればアセチルコリンレベルが上がります。そのような薬がアセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤あるいは単にコリンエステラーゼ阻害剤とも呼ばれる医薬品です。例えば、アリセプトという商品名で有名なドネペジル塩酸塩や、リバスチグミン、ガランタミン、タクリンなどです。

NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬

グルタミン酸は、脳内で記憶をつくるのに欠かせない重要な伝達物質の1つです。グルタミン酸が受容体にくっつく(ドッキング)ことで神経細胞が興奮し、記憶されます。しかしながら、受容体の中でもNMDA型と呼ばれる受容体が興奮しすぎてしまうと、神経変性や細胞の自殺(アポトーシス)を引き起こしてしまうため、問題になります。これはグルタミン酸がNMDA型受容体にくっつくとカルシウムチャネルが拓いてしまい、カルシウムイオンが神経細胞に入ってきますが、このカルシウムイオンの流入量があまりに多いと神経細胞に深刻なダメージが起き、アポトーシスに導かれてしまいます。

しかしながらNMDA型の受容体は記憶に関わる部分ですので、ここを完璧にブロックしてしまうと困ります。そこで開発されたのがNMDA型を部分的にブロックして、神経細胞を興奮による自殺から守ることを目的とした部分阻害薬(パーシャルアゴニスト)がメマンチンという薬です。メマンチンはメマリーという商品名で出されています。この薬の良い所は、上で述べたACE阻害剤と一緒に使うことができる点です。


現状のアルツハイマー病に対する研究

先程述べた通り、今あるアルツハイマー病の薬はあくまで対症療法です。そこで、アルツハイマーを完全に治療しようといくつもの研究や開発がなされています。ここでは研究段階や最近行われている研究について紹介します。

セクレターゼ阻害剤

アルツハイマー病の根本的な原因は、先ほど上に書いた通り、アミロイドβというタンパク質であり、最近では、アミロイドβというタンパク質がより集まる(凝集する)ことで老人斑ができ、神経細胞が死滅することが分かってきています。実はこのアミロイドβが脳の中でできる仕組みはすでに分かっていて、細胞に存在するアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)というタンパク質がセクレターゼという酵素によって切断されることが原因であるとわかっています。

そこでこのセクレターゼをブロックしてあげれば、アミロイドβができてこないだろうということで、このセクレターゼを防ぐ薬、すなわちセクレターゼ阻害剤が研究されています。しかしながら現在の所、イーライリリー社を中心に進められていたβセクレターゼ(セクレターゼの一種)阻害剤の開発が中止になってしまいました。実はこのβセクレターゼ阻害剤を投与した患者には狙った効果は見られず、またいくつかの副作用が見つかったためです。現在でもいくつか研究開発が進められています。

アミロイドβ凝集阻害剤

最近中心となって研究が進められているのが、アミロイドβができてしまってからその凝集を防ぐアミロイドβ凝集阻害剤です。

実は生体内にはもともと、アミロイドβを除去する機構の存在が知られており、その機構についてはアミロイドβが凝集するよりも、単独(モノマー)の状態でいる方がよく知られています。これをクリアランス機構と呼んだりもします。従ってこのアミロイドβが凝集するのを防いであげれば、老人斑にはならず、神経細胞の死滅が防げるのではないかと考えられています。

実際にいくつかの研究ではこのアミロイドβの凝集を防ぐ化合物や手法が報告されています。

神経細胞分化誘導剤

先程から言っているこのアミロイドβをなくすというタイプの薬も実は完全な根本治療薬とは言えません。それはアルツハイマー病中期や末期患者の場合では、ある程度神経細胞が死滅してしまっており、アミロイドβの量をコントロールしてもなくなった細胞は戻ってこないからです。

そこで、無くなってしまった神経細胞を取り戻そうというのがこの神経細胞分化誘導剤です。実際に成人の脳内にも微量ではありますが、神経幹細胞(神経細胞になる前の細胞)が存在することが分かっています。神経幹細胞はグリア細胞などの他の細胞にもなってしまう(分化する)ことが知られていますが、これを選択的に神経細胞に誘導することができれば、脳内の神経細胞を増やすことができるという考え方です。

実際にいくつか神経幹細胞から神経細胞に分化を誘導する化合物が見つかっています。また、話題のiPS細胞を神経細胞に誘導する化合物も見つかっていますので、今後iPS細胞を用いた脳移植なども考えられるかもしれません。

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