エステル合成といえば、アルコールとカルボン酸の脱水縮合がメインですが、アルキン・アルケンへのカルボン酸の付加反応によってもエステルを合成することができます。
本記事ではアルキン・アルケンを使ったエステル合成法の特徴や条件などを紹介します。
アルケンやアルキンに対する付加反応でエステルを合成する
エステル合成といえばカルボン酸とアルコールの脱水縮合ですが、アルケンやアルキンに対してカルボン酸は付加反応を起こして対応するエステルを生成します。
代表例はイソブテンとカルボン酸との反応でtert-ブチルエステルを合成する方法です。
この反応の利点としては、アルコールを過剰に使わなくても良い点です。tert-ブタノールなどの沸点が低くて極性の高い溶媒は後処理が面倒なので使いたくありませんが、イソブテンを使えばカルボン酸溶液にバブリングすれば、高収率でtert-ブチルエステルが合成できます。
原理上アセチレンも反応してビニルエステルを生成しますが、あまり効率的ではないです。
原料としてはオレフィンよりもアルコールのほうが入手・合成しやすく、付加反応の位置選択性の問題もあるため、実用上重要な反応はイソブテンによるtertブチルエステルの合成となります。
反応機構
イソブテンはプロトンと反応すると第三級カルボカチオンが生成します。これにカルボン酸が求核攻撃してtertブチルエステルが生成します。
反応条件
オレフィンの付加反応は無水条件、低温で実施したほうが収率が良いです。
酸触媒としては硫酸や三フッ化ホウ素が使われます。
Hg(OAc)2を触媒として反応させるとエノールエステルが得られます。
位置選択性を改善したルテニウム触媒が開発されています
位置選択性を改善させた触媒の開発が行われており、代表的なものがルテニウム触媒です。ルテニウム触媒のリガンドの構造によって、マルコフニコフ則付加体とアンチマルコフニコフ則付加体を高い選択性での合成が達成されています。
選択性はルテニウムがアセチレンに付加し際にπ錯体かビニリデン錯体を形成するのかによって変化します。
実験操作(tert-ブチルエステル)
カルボン酸の脱水THF溶液に触媒量の硫酸もしくはBF3・Et2Oを加えて氷冷下気体のイソブテンを細いガラス管などを使って反応容器内にバブリングもしくは置換して反応させる。原料が消失したら濃縮、分液して目的物を得る。
参考
Kouichi Matsumoto et al, Recent Advances in the synthesis of carboxylic acid esters”