蛍光は極微量でも高感度に検出することができるため、微量物質の検出に良く利用されています。
蛍光を持たない物質を改変して蛍光を発するような状態に変換すると、ごく僅かな量でも蛍光で検出できます。
この記事ではそうした蛍光を利用した微量物質の分析について紹介します。
微量物質の検出に蛍光が使われる理由
化学物質の中には極微量であっても大きな働きをするような物質があります。
例えば、生育に関わる植物ホルモンのジベレリンは40トンのタケノコからわずか14mgしか得られませんでした1)。
この極微量物質のジベレリンは植物ホルモンの代表的な存在であり、種無しブドウや病災害に強いコメの生産など幅広く利用されています2)。
環境や生体内にはこうした価値のある微量物質がたくさんあります。
しかし、そうした微量物質の研究をするには、目に見えない微量物質を高感度に検出できなければなりません。
化学物質の検出方法として最もよく利用されているのはUV(紫外線)の吸収を検出する方法です。薄層クロマトグラフィーやHPLCにおいて、UVは化学物質の検出に使われています。
化学物質の検出に使われている手法は他には
- 紫外吸収 (UV検出法)
- 赤外吸収 (IR検出法)
- NMR
- マススペクトル
- 元素分析
- 旋光度
- 放射線検出
などがありますが、感度が悪い、破壊的である、不安定である、分離に応用しにくい、安全面で問題があるなどの問題があります。
ここで蛍光を利用した「蛍光法」が役に立ちます。
蛍光検出の特徴
蛍光は「とある波長の光を当てた時に発せられる別の波長の光のこと」です。
蛍光は当てた光を反射しているのではなく、当てた光のエネルギーを吸収して別の波長の光を放出する現象です。
全ての化学物質がこのような性質を持っているのではなく、とある条件を満たした化学物質のみが蛍光を持っています。このような物質を蛍光物質といいます。上図の7-ヒドロキシクマリンは蛍光物質です。ナフタレンは紫外線を吸収しますが、蛍光はありません。また、デカリンはUVを吸収しません。
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こめやん
光の検出はごくわずかな量であっても検出できる利点があります。
また、自然界には蛍光物質は少ないのでノイズが少なく見分けるのが簡単です。
こめやん
光検出法の中でも蛍光の感度が高い理由
光を使った検出は遠く離れていても見えたり、物質を透過したりできるので便利です。そんな光を使った検出方法には
- 光の吸収を測定する方法 (吸光度測定)
- 蛍光を測定する方法 (蛍光測定)
が化学物質の検出や定量などによく利用されていますが、とくに「蛍光検出法」は感度が高いです。
その理由として
- 直接測定できる(0と1の変化を比べる)
- 低ノイズ (選択性が高い)
があります。
まず、第一の理由ですが蛍光変化は光が無い状態から、光がある状態を計測します。比較が0なので蛍光を測定した値がそのまま蛍光の量になります。
こめやん
対して、光の吸収を計測する吸光度は「光がある状態から、どれだけ光が減少するかを測定する」つまり、2つの値から差を測定する方法です。具体的には下の図で説明します。
吸光度測定の場合、上の図のように入射した光と通過光を比較して算出します。例えば、100%の入射した光のうち、0.1%が微量物質に吸収されたとしたら、入射した光の量は100で吸収されて減った光は99.9となります。つまり吸収した分は100-99.9=0.01と計算できます。
こめやん
しかし蛍光測定は光を当てたことによって発生した別の色の光を計測するため、ごく僅かな蛍光でも、蛍光が有るか無いか?が簡単に検出できます。吸光で問題となった入射光との差をとる必要がないので、より微弱なシグナルを測定するのに蛍光のほうが有利です。
蛍光の感度が高いと言われる2つ目の理由は「蛍光物質が自然界に少ないため、選択性が高いこと」です。
UVの吸収は不飽和結合を持つ多くの分子で見られるので、吸光度では測定対象の分子以外の物質が存在すると、その影響を受けやすいです。
例えば、ノルアドレナリンの吸光度を測定使用とした時、生体内などには他にも様々な分子が存在しています。これらの分子の多くはベンゼン環を含んでいてい紫外線を吸収してしまうので、ノルアドレナリンだけの吸光度を測定するのは難しいです(選択性が低い)
一方で蛍光測定では、ノルアドレナリンを蛍光誘導体化してしまえば、自然界には蛍光物質はあまり存在していないので、ノルアドレナリンだけの蛍光を測定することができます(選択性が高い)。
こめやん
溶液の吸光度測定は実際は入射光と通過光を比べているのではなく、測定物質が入っていない溶液の通過光と測定物質が入った溶液の通過光を比較しています
生体内微量物質の分析に蛍光物質は役立つ
蛍光物質は有機化合物・無機化合物ともにありますが、手の加えやすさ(他の分子とのつなげやすさや分子量、精製や構造決定など)を考えると有機化合物が利用しやすいです。
生命現象の解明にはホルモンや神経伝達物質など多くの微量生体内物質の検出が不可欠です。蛍光分子はこれらの生体内微量物質の検出に役立ってきました。
HPLCでは測定対象の分子を蛍光を持つように改変することでより高感度に測定する方法が利用されています。
また、特定の分子だけを選択的に蛍光誘導体化するように設計された分子は蛍光プローブと呼ばれていて、環境や生体内にある測定したい分子だけを蛍光化して測定することができます。
また、生物学の分野では蛍光タンパク質が様々な生命現象の解明に役立っています。蛍光を使った応用については別記事で紹介します。
参考文献
1) 米原弘, 高橋信孝, and 大岳望. “天然有機化合物の分離法 I.” 化学と生物 5.1 (1967): 37-44.
2) 箱嶋敏雄, 村瀬浩司, and 平野良憲. “ジベレリン受容体のジベレリン識別とエフェクター認識.” 日本結晶学会誌 52.1 (2010): 37-41.