t-Bu基(tert-ブチル基)とは
t-Bu基はエーテル系のアルコールの保護基です。t-Bu基は強酸以外のほとんどの条件に対して安定な一方で、TFA等の強酸を用いることで容易に脱保護できます。保護も比較的穏和な条件で可能です。
特徴・利点
t-Bu基の利点や特徴は
- 強酸性以外のほとんどの条件で安定
- 脱保護時に生成するのがガスであり精製が楽
- 脱保護が穏和に進行
欠点は
- 保護基導入が割と面倒(イソブテンガスを使用すると)
t-ブチル保護は水酸基の他の保護基と比べても安定で強い分類です。保護にイソブテンガスを吹き込む操作が必要なので、TBS基などのほうが簡便だと思います。
反応機構
反応機構ー保護
イソブテンがプロトンを攻撃してカルボカチオンが生成します。このカルボカチオンをアルコールが攻撃することにより保護アミン体が生成します。
反応機構ー脱保護
t-ブチル基の脱保護は酸性条件下で行われます。プロトン化されたアルコールを脱離させるようにイソブテン(ガス)が生成して脱保護が完了します。
反応条件-保護
t-ブチル基の保護は、酸性条件下イソブテンガスを吹き込むことによって行います。空いている一級アルコールが優先的に保護されます。酸触媒としてはH2SO4、H3PO4、BF3・Et2Oなどが用いられます。
保護条件例1
濃硫酸(1 eq, 10mmol)を、ジクロロメタン(30mL)、無水硫酸マグネシウム(4 eq, 40mmol)の懸濁液に滴下して加えて混合物を15分間撹拌した。 次いで、ジクロロメタン(10 mL)に溶解したt-ブタノール(5 eq, 50 mmol)とアルコール(1eq, 10 mmol)の混合物を加えた。 栓をして25℃で18時間撹拌した後、75mLの5%炭酸水素ナトリウム水溶液でクエンチし、硫酸マグネシウムが溶解するまで撹拌した。 有機層を分離し、食塩水で洗浄し、乾燥(MgSO4)、濃縮し、カラムクロマトグラフィーにより精製して目的物を得た(93%)。Wright, Stephen W. et al., Tetrahedron Letters, 1997, 38, 7348.より引用。この方法は、イソブテンガスを使用しなくても保護できる方法です。
反応例2
ジクロロメタン(15mL)、アルコール体(1.28g,7.20mmol)の溶液に濃硫酸(0.5mL)を0℃で激しく撹拌しながら滴下した。次にイソブテンガス(5mL)を0℃で溶媒中にバブリングして少しずつ吹き込んで加え、室温で48時間撹拌した。混合物を0℃に冷却し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液をゆっくり加え、続いてジクロロメタンで抽出した。有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮して得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製して保護アルコール体を得た(収率83%)。Vassiliou, Stamatia, et al. J. Med. Chem. 2011, 57, 8151.より引用。この手法はスタンダードな方法です。室温に戻さずに0℃のまま撹拌しても反応は進行する。イソブテンの量が過剰になると2層になったりするのでそのときは溶媒を加えて希釈する。イソブテンの沸点が-7℃くらいなのでもう少し冷却しても良い(-78℃まで)。
保護条件
よく利用される酸:硫酸、TfOH、陽イオン交換樹脂(Amberlyst 15等)
溶媒:ジクロロメタン、ジオキサン
脱保護反応例
t-ブチル基の脱保護は酸性条件で行われます。HCl/dioxane、トリフルオロ酢酸やルイス酸(AlCl3、TiCl4) TMSIなども用いられます。
反応例1
二口フラスコ中にCeCl3・7H2O(1eq, 1.0 mmol)を真空下オイルバス中130℃で1時間加熱した。その後撹拌をONにして加熱をさらに1時間続けた。 不活性ガスに置換し、室温まで冷却後、保護アルコール(1eq, 1.0 mmol), NaI(1 eq, 1.0 mmol)及び2mLの無水CH3CNを加え70℃で4時間撹拌し、Et2Oで希釈し、ろ過した。 ろ過した塩をEt2Oで数回洗浄した。濾液を濃縮し、フラッシュクロマトグラフィーにより精製し、目的物を得た(99%)。Giuseppe, Bartoli, et al. Adv. Synth. Catal. 2006, 348, 910.より引用。CeCl3を用いた条件では、ケトンやオレフィン、アルデヒド、ニトロ、シアノ、ベンジル基は影響を受けないです。脂肪族、芳香族、アリルアルコールの保護はどれも適応可能です。
注意事項ーTips
- 保護時にカルボン酸があるとt-Buエステルに変換される場合があるので注意する。
参考まとめ
Wuts, Peter G. M.. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis forth edition (p.82). Wiley.