デスマーチン酸化は主にアルコールをアルデヒドに酸化する酸化剤で、非常に穏和に反応が進行して高収率でアルデヒドが得られることから全合成でも利用されています。デスマーチン酸化の特徴や反応などについて紹介します。
[box03 title=”デスマーチン酸化の特徴”]
アルコール→アルデヒドorケトン
アルデヒドで止まる
穏和で官能基許容性が高い
爆発する危険がある
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デスマーチン酸化とは?
デスマーチン酸化は超原子価ヨウ素化合物であるデスマーチンペルヨージナンを使用する酸化反応です。超原子価ヨウ素化合物であるデスマーチン試薬はIBXと同様に爆発性を有するため、取扱注意です。デスマーチン酸化の欠点は
- 高価である
- 冷所保存で取扱が面倒
- 爆発性がある
- 反応進行につれて酢酸が出てくる
です。
利点としては、
- 官能基許容性が高い
- IBXと比べると有機溶媒に溶けやすい
- 弱酸性で酸性に弱い官能基も利用可能
- 反応性が高く選択的かつ早く、信頼性が高い反応
などが挙げられます。
条件・操作手順
・反応条件
反応進行につれて出てくる酸が気になるときはNaHCO3やピリジンを共存させるとよい。
50-400 mMアルコールのジクロロメタン溶液にデスマーチン試薬(1-2eq程度)を0℃で加えて、室温に戻しながら撹拌します(1-3h)。酸による影響を減らしたい場合はNaHCO3を10eq程度またはピリジン3eq程度を加えて反応を行います。反応後はチオ硫酸ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウムで洗浄後、カラムクロマトグラフィーで精製して目的物を得ます。
- 溶媒
基本はジクロロメタンです。ベンゼン、トルエン、クロロホルム、DMSO、DMF、THF、EtOAc、MeCNなどが使用されています。
- 温度
0℃-20℃で反応させることが多いです。大抵は室温程度で反応が進行します。
- 危険性
爆発する可能性があるので、金属スパーテルや割れて尖ったガラス器具などを突っ込んだりしないようにします。衝撃も与えないようにします。
官能基許容性
デスマーチン試薬の特徴の一つが官能基許容性が高いところです。ターゲット以外の官能基が存在していても影響を与えること無く、アルコールだけを酸化することができます。そのため全合成などで合成終盤でも用いられることが多いです。
カルボン酸、酸アミド、エステル、オレフィン、TBS、PMBは影響を受けません。
反応選択性
デスマーチン試薬はチオエーテルやアミンなどを酸化させずにアルコールを選択的に酸化させることができます。
参考・文献・小技
反応副生物の除去
DMP試薬はアルコールとの反応に伴い酢酸が2当量脱離して、生成するペルヨージナンは1.5 M NaOHで加水分解してできた安息香酸誘導体を塩基性水溶性で分液すれば水層に除去できます。
酸に弱い基質の反応
デスマーチン試薬は反応と共に酢酸が副生するので酸に弱い基質の場合は影響を受ける可能性があります。この場合はピリジンを加えておくことで酸による影響を抑えることができます。