PDC酸化とは?
PDC酸化はアルコールをアルデヒド、ケトン、カルボン酸に変換する酸化方法の一つです。クロム酸酸化のなかでは比較的新しく、PCCよりも後に生まれました(E.J.Corey: 1979)。PDC酸化は特にアルデヒド合成に使われます。PDCの使い方はPCCと同じです。PDCの欠点は、
- 反応中にタール状のベタついた残渣が出てくる
- DMF中で第一級アルコールはカルボン酸まで酸化される
です。PCCと同様にPDCでもMS4A、セライトなどを加えて、タール状の残渣による収率低下などを防ぐことができます。
利点としては、
- 中性である(PCCはやや酸性)
- ジクロロメタン以外の溶媒も使用可能(MeCNとか)
- タール状の残渣の生成がしにくい
PCCとPDCはどちらを使用しても同じような結果が得られます。若干PDCのほうが酸化力が大きいようですが、反応は遅いです。酸性に弱い官能基がある場合は中性のPDCを使用するほうが安全です。また、場合によっては、第一級アルコールをカルボン酸に還元するのにDMF中でPDCを使用するというのもありかもしれません。
PDC酸化の特徴・選択のポイント DMF中ではカルボン酸に?
PDCは安定な固体で安価であり、加えて混ぜるだけの簡単な操作で酸化できるので利用しやすいです。反応で出てくるタール状の残渣に吸着されて収率が落ちることがあるので、微量物質の合成には向いていないかもしれません。PDCを使うときは
- 合成初期ステップの大量合成時
- クロムを使用しても良い環境
- 酸性に弱い官能基がある
ケトンを作る時ジョーンズ酸化では酸に侵されるから、アルデヒドを合成するときはスワーン酸化は臭くて、冷却も面倒、DMP、TPAPは高くて大スケールはやりにくい、TEMPOは条件とかによってちょっと面倒だから…PDC? 過去の合成例などを参照して、あとは好みですね
PCC酸化の特徴
- 化学量論量で反応が行える
- 室温で安定に保存できる点
- アルデヒド合成に使える
- ほぼ中性条件
PDC酸化の反応条件と操作手順
・反応条件
PDC(1.1-6eq)と活性化した粉MS3A(適量)に脱水ジクロロメタンを加えて懸濁液とした後、ジクロロメタンに溶かした基質のアルコール(10-500 mM)を滴下して加えます。室温(または0℃に冷却してから室温で)でそのまま数時間撹拌し、TLCで反応チェック(アルデヒドはDNP発色試薬でチェック)反応後、ろ過(セライトとか)してよく洗浄し、濃縮後、精製します。
・溶媒
ジクロロメタンの代わりにヘキサン、トルエン、ベンゼン、THF、ジオキサン、アセトン 、EtOAc, MeCN, CHCl3を溶媒とし使うことができます。DMFはよくPDCを溶かし反応性が上がります。しばしば、ジクロロメタンとの混合溶媒で反応を行うこともあります。しかし、DMFを溶媒として使用すると第一級アルコールの場合カルボン酸まで過酸化してしまうので注意です。
- 危険性
PDCもクロムを使っているので、毒性が高く、爆発的な反応が起こる場合があるので注意する。
官能基許容性
・耐える官能基
TMS、THP、tert – Bu ester、Boc、トリチル基、PMB基、ジチオアセタール、
・変化しうる構造
フラン環、三級アリルアルコール、スルフィド
PDC酸化の反応機構
PDC酸化の反応機構は、他のクロム酸酸化と同様の機構によって反応が進行します。参考までに
プロトンの移動などは省略して書いています。
参考・文献・小技
- 酢酸ナトリウムの添加で、微量の酸の影響を減ずることができる。
- MS3A粉を加えると収率向上が見込める
- 酸の添加(CSA、pTSA、AcOH)はPCCをと同様に反応を加速させる。
- PDCの結晶をよく砕いてから使用すると収率が上がる。超音波も効果的。
- 反応溶媒は脱水溶媒を使用すること
PDCの合成法
PDCは自前で調製することもできます。市販されているので購入するのが良いですが、手元にないときなどは合成してみてもよいかもしれません。
50mLの水と50gの三酸化クロムを500mLのtwo-neckフラスコに加えて溶解した後、40.3 mLのピリジンを滴下して加えて、液温が15~25℃の範囲に収まるように温度計でモニタリングします(氷浴等を使って液温を調節する。冷やしすぎると固まる)。
その後、アセトン200mLをゆっくりと加えてから、氷浴で結晶化し、濾過してドライしてPDCを得ます。
From Patent CN103694281