今話題のエクオールは大豆イソフラボンが身体の中で変化してできる物質のことです。大豆イソフラボンといえば、女性の加齢によって減少する女性ホルモンを補う効果があるとして一時期話題になりました。女性ホルモンの減少は特に「更年期障害」として呼ばれる症状を引き起こすと考えられていますよね?この女性ホルモン=美容と考えられていて、肌やダイエットにも効果があるとうたわれています。本当にそんな効果があったら嬉しいですよね?でも、何となくこのエクオールって怪しい響きがあるので本当に期待されている効果があるのか?信頼できるか?というのを科学的な観点から見ていこうと思います。
エクオールの効果とは?
まず、エクオールというものの詳細は置いておいてその効果の根拠としては、女性ホルモンエストロジェンと似た形をしていることから、「身体の中で年齢とともに減少した女性ホルモン・エストロジェンの代わりに、エクオールが働く」ということみたいです。
検査が必要な理由とエクオールの効果の秘密
下にあるのは化学構造式です。絵みたいなものだと思ってください。右上の四角で囲っているのは女性ホルモンのエストロジェンの一種17β-エストラジオールという化学物質で、エストロジェンの中でも最も作用強い物質です。この物質の構造の青い部分に注目してください。ゲニステインもダイゼインもエクオールも青い部分に似ている部分がありますが、ゲニステインやダイゼインはエストラジオールにはない緑色のOHや=Oという部分があります。これが無いエクオールはエストラジオールに最も近いため、作用もエストラジオールと同じように働く可能性があるということです。(エクオールは代謝過程で二重結合が還元されることで光学活性体となる)
大豆イソフラボンはゲニステインやダイゼインなどがあるそうです。そのうちエクオールになるのは、ダイゼインのみで、腸内細菌によって変換されるそうです。ただし、このダイゼインをエクオールに変えることができる人日本人の半分だけで、50%の人はエクオールに変えることができないそうです。エクオールの検査というのはエクオールに変える腸内細菌を持っているかどうか調べるための検査だったのです。
エクオールの効果についての研究
骨量減少の予防
骨粗鬆症モデル動物を使った実験では、ダイゼイン単独と比べてエクオールのほうが有意に骨量減少を予防する効果があることが報告されています。
食欲減退作用
動物実験で、メスのみで食欲減退作用があることが示唆されています。
血圧を下げる
大豆イソフラボンを多量に摂取する人では血圧が低いという報告があります。作用は一酸化窒素合成酵素を誘導する作用によるものが確認されています(一酸化窒素は血管を広げて血圧を下げる作用がある。)血管拡張作用に関する研究はたくさんありますが、人に対する作用は効果がないとされるものもあります。
Totta, P.,et al. J.Nutr.,135, 2687-2693 (2005).
前立肥大症、前立腺がん、男性型脱毛への効果
アンドロゲンとは男性ホルモンのテストステロンなどのことをいいます。言い換えると男性ホルモンの作用を抑える働きがあります。この働きから、男性にとっては、前立腺がんや前立腺肥大、男性型脱毛症への効果があると考えられています。
前立腺がん治療
前立腺がんは男性ホルモンの作用を受けて増殖します。前立腺がんの治療には男性ホルモンの作用を打ち消すビカルタミドなどの抗アンドロゲン作用を持っている物質が使われています。エクオールも同様に男性ホルモンの作用を打ち消す作用があります。機構としては、男性ホルモンの活性化体であるジヒドロテストステロン(500倍の活性)をテストステロンを原料として作る酵素5-αレダクターゼの阻害とジヒドロテストステロンと結合して男性ホルモンの作用が起きないようにする作用があります。
分子レベルでの調査(ちょっと専門)
エクオールはエストロジェンレセプター(ER)に結合すると考えられています。エストラジオールがERに結合すると遺伝子発現が起こります。同じようにエクオールがERに結合したあと同じ遺伝子発現が起こるかをレポータージーンアッセイと呼ばれる方法を用いて検査しています。ERにはERαとERβの2つのサブタイプが存在します。両方共に検査しています。
「引用:臼井健 ”Molecular and pharmacological analysis of Genistein, Daizein and its metabolite Equal, and their clinical significance”, 大豆たん白質研究, 9(27), 153-157, 2006」
ERαレポーターアッセイ
ERβレポーターアッセイ
TSA201細胞を用いてアッセイしている。結果的には、いずれの大豆イソフラボンもERα、βのいずれに対しても活性がありました。特にダイゼインはERβに対するスーパーアゴニストとして作用しました。またこれらの活性はアンタゴニスト存在下で抑えられたことからERを介した作用であることが示されました。エクオールの強さは?でした。ERαよりもERβのほうに強く作用する傾向があるようです。同時にin vitroの結合試験も行っています。
レポータージーンアッセイとは?
ERに結合するとそれをきっかけに遺伝子の発現が起こります(タンパク質が作られる)
この時、その遺伝子と同時に別の光るタンパク質を作る遺伝子を隣に入れることで、遺伝子発現が起こったかどうかを光を検出することで調べることができます。一般的にこの光るタンパク質はルシフェラーゼというホタルが持っているタンパク質を使うのでルシフェラーゼアッセイとも呼ばれます。
エクオールの副作用は?
エクオールの副作用は低いという報告があります。卵胞刺激ホルモン(FSH)、トリヨードサイロニン(T3)、チロキシン(T4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する影響は認められませんでした。「Tousen, Yuko, et al. “Natural S-equol decreases bone resorption in postmenopausal, non-equol-producing Japanese women: a pilot randomized, placebo-controlled trial.” Menopause 18.5 (2011): 563-574.」
今の所はそこまで副作用は気にしなくても良いかもしれません。しかし、摂取のし過ぎは注意が必要です。ステロイドホルモンのバランスは非常に繊細に保たれているので食品レベルであっても安易に摂取しすぎるとおもわぬ副作用が起こる危険性があります。治療という観点で摂取するのではなく、予防という観点で摂取するようにしたほうが安全ですね。
更年期障害改善のための女性ホルモン補填療法の効果(医学的知見)
加齢により減少する女性ホルモン・エストラジオールが更年期障害の原因であるという説から、減少した女性ホルモンを摂取して治療しようという方法がやられていました。しかし、アメリカで行われた大規模臨床調査(WHI study)では、この女性ホルモンの補填療法は効果よりもリスク方が大きいという報告がなされています。
その一方で、エストロゲンの摂取は骨粗鬆症の治療、乳がんや動脈硬化の治療にも効果的であるという報告もあります。
一般的に、ステロイドホルモン(エストロゲンや男性ホルモンアンドロゲン、グルココルチコイドなどのステロイド骨格を持つホルモン群)は生体内で微量でも強い効果を持ち、遺伝子の転写制御を行っています。逆に言えば、強い効果と同時に強い副作用を及ぼす可能性があり、医薬品としては使用が難しい分類の医薬品類です。
1) Rossouw JE, Anderson GL, Prentice RL, LaCroix AZ, Kooperberg C, Stefanick ML, Jackson RD, Beresford SA, Howard BV, Johnson KC, Kotchen JM and Ockene J (2002): Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results From the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. Jama , 288 , 321-333.
2 ) Zandi PP, Carlson MC, Plassman BL, Welsh- Bohmer KA, Mayer LS, Steffens DC and Breitner JC (2002): Hormone replacement therapy and incidence of Alzheimer disease in older women: the Cache County Study. Jama , 288 , 2123-2129.
結論
エクオールは怪しいものではなくきちんと研究されているものでした。その点は安心されて良いと思います。言われている作用(女性ホルモン様の作用をもつ)もしっかりと確認されています。
健康成分の全般に言えることですが、作用が細胞レベル、動物実験レベルで確認できても人には効果があったりなかったり微妙なことが多いです。それは、いろんな原因がありますが、食品で摂取する量では少なすぎたり、消化や吸収の問題、そもそもの作用が弱いなどです。むしろ強すぎるとそれはそれで問題です。薬と毒は紙一重なところがありますから。
過度な期待は禁物ですが、食品として摂取する分には幾分か改善される可能性はあるかもしれません。実際に更年期障害が緩和されたという2年間の前向き観察研究による結果が出ています。10mg/dayの摂取量で動脈硬化の減少?、血中トリグリセリド値、骨吸収リスクなどが低減しています。効果は置いておいて、参加した105人の女性に更年期障害の女性ホルモン補填療法で見られる副作用である子宮筋腫の増大や子宮内膜肥厚、乳腺検査などにおいて異常はなかったようです。
J Altern Complement Med. 2018 Jul;24(7):701-708. doi: 10.1089/acm.2018.0050.
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ただしステロイドホルモン様の作用を示す物質は注意が必要です。販売されている成分も大きな効果を期待して摂取量を増加させるのは危険ですのでやめましょう。私だったら試してみようかなと思えますね。