ザンドマイヤー反応とは?
ザンドマイヤー反応はアニリンを原料として亜硝酸塩により発生したジアゾニウムイオンをハロゲン化銅により処理して芳香族ハロゲン化合物を合成する反応です。
ハロゲン化物イオン源には銅やアルカリ金属塩が用いられます。
反応するもの① | 反応するもの② | できるもの |
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ジアゾニウム塩 | ハロゲン化物イオン、擬ハロゲン化物イオン | ハロゲン化合物、擬ハロゲン化合物 |
CN– (KCN, CuCN) | CN化合物 | |
I– (KI, CuI) | I化合物 | |
Br– (CuBr) | Br化合物 | |
Cl– (CuCl) | Cl化合物 |
また、ジアゾニウム塩に対する置換反応はハロゲンだけでなく、シアノ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキシ基を導入することもできます。
ザンドマイヤー反応の特徴
ジアゾニウム塩はアリールアミンを酸性亜硝酸塩(NaNO2/HX)中で処理して得ます。ジアゾニウム塩は単離しないでそのままワンポットでハロゲン化します。
ハロゲン化剤としては銅塩がよく利用されます。
ザンドマイヤーの別称
アリールジアゾニウム塩の置換反応としてはその他にも有用な反応もしられていますが、ザンドマイヤー反応ではなく別の名前で呼ばれる場合もあります。例えばアリールジアゾニウム塩を金属銅存在下、塩化水素や臭化水素と反応させても塩化アリールや臭化アリールが得られますが、この反応はGattermann反応と呼ばれています。
また、ジアゾニウム塩を合成する際にHBF4を加えてアリールジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩が得られます。これを熱分解することによって芳香族フッ素化合物が合成できます。この反応はBalz-Schiemann反応と呼ばれています。さらにフッ化物合成だけでなく、触媒量の銅(I)塩存在下、亜硝酸ナトリウムと反応すると芳香族ニトロ化合物を得ることも可能です。
アリールジアゾニウム塩をトリフルオロ酢酸硫酸水溶液または銅塩の水溶液中で加熱するとフェノールに変換できます(Sandmeyerヒドロキシ化)。
反応の歴史
1884年にSandmeyerはフェニルアセチレンを合成するために塩化ベンゼンジアゾニウムと銅(I)アセチリドを反応させたところ、目的物はまったく得られず代わりに塩化ベンゼンが主生成物として得られることを見出しました。その後この反応を検討したところ、反応系内で塩化銅(I)が生成し、これがジアゾニウム基と塩化物イオンとの置換反応を触媒していることを明らかとしました。さらに、この反応で臭化銅(I)を用いると臭化ベンゼンが、またシアン化銅(I)を用いるとベンゾニトリルが生成することも見出しました。
Ar-X(ハロゲンあるいは擬ハロゲン)以外にもAr-C、Ar-O、Ar-S結合の形成が可能で、2010年以降ではAr-B、Ar-Sn、Ar-P、Ar-CF3結合の形成も可能であることが報告されています(下図)。
図: 近年のSandmeyer反応の開発 (参考文献より一部改変)
反応機構
アリールアミンからアリールジアゾニウム塩を生成する反応機構は、アミンがニトロソニウムイオンに攻撃してニトロソアミンが生成し、酸性溶媒中脱水反応が進行してジアゾニウムが生成します。
アリールジアゾニウム塩からハロゲン化合物が生成する反応機構は詳しい機構はまだ完全に解明されていないようです。一電子移動機構で説明されます。