ワッカー酸化とは?
ワッカー酸化は、2価のパラジウム触媒と再酸化剤を使った末端アルケン(オレフィン)からカルボニル化合物への酸化反応です。
ワッカー酸化では通常、マルコフニコフ則に則った生成物(メチルケトン)を与えます。この触媒的酸化反応はとても穏やかで官能基許容性が高く、O、N複素環などの合成に有用です。
反応機構
二重結合に配位した二価パラジウムに水が入る(hydroxy-palladiation)とオレフィンが酸化され、βヒドリド脱離により、0価パラジウムとエノールができます。エノールは異性化してケトンになります。0価のパラジウムは、酸化されて二価のパラジウムに戻ります。
酸化剤としては、オリジナルな方法ではCuClなどのハロゲン化銅を用います。
ワッカー酸化の特徴や反応条件
ワッカー酸化ではDMFやアルコールを使用することが多いです。
ワッカー酸化では酸・塩基を加えないため中性条件で進行し、温和で多くの官能基が耐える特徴があります。例えば、
エステルやホルミル基、ヒドロキシ基、第三級アミン、TBS基、アセタール、Boc基が存在していても影響をうけません。
触媒は塩化パラジウムを用いると塩化物イオンが副反応をおこすことがあるので、酢酸パラジウムなど他の触媒が使うことが推奨されています。
銅塩の塩化銅の代わりに酢酸銅を使う方法も報告されています。
最近の進歩
ハロゲン化銅に代わる再酸化剤としては、DMP(デスマーチンペルヨージナン)、気体酸素やTBHP(tert-ブチルヒドロペルオキシド)、過酸化水素などが使われています。
溶媒にtert-ブチルアルコールやイソアミルアルコールなどの嵩高い溶媒を用いると逆マルコフニコフ則の生成物(アルデヒド)が生成します。
嵩高いアルコールはより立体障害の少ない末端へ求核攻撃するためと考えられています。
内部アルケンへの酸化
内部アルケンへの酸化はPdCl2, DMA/H2O, O2 80℃の条件で合成可能。環状アルケンも環状ケトンへの酸化される。非対称の内部アルケンの酸化選択性は様々で、アリル位にベンジルエーテルがあるアルケンは遠位アルケンが選択的に酸化されます。
ワッカー酸化の例1
塩化パラジウム(II)(300 mg、1.69 mmol)および酢酸銅(II)一水和物(3.38 g、16.9 mmol)のN、N-ジメチルアセトアミド(5 mL)& H2O(0.8 mL)の攪拌溶液に基質(4.52 mmol)とAcNMe2(1mL)の溶液を滴下して加えたあと、酸素雰囲気下、室温で3日間撹拌した後、濾過して、濾液をEt 2 Oで抽出、クルードをカラム精製して(982 mg、3.89 mmol、86%)を得た。
ワッカー酸化 酢酸パラジウムの例
基質(1 mmol)およびPd(OAc)2(10mol%)のフラスコを酸素置換し、DMSO(2.5 mL)、H2O(0.25 mL)、トリフルオロ酢酸(TFA)(1 mmol)を順次加えた後、70℃酸素雰囲気下で撹拌し、終了後濾過、酢酸エチルで抽出しクルードをカラム精製して目的物を92%で得た。
逆マルコフニコフ則に従った生成物ではアルデヒドが生成します。以下の条件ではアルデヒドが優先的に生成します。
P. Teo, Z. K. Wickens, G. Dong, R. H. Grubbs, Org. Lett., 2012, 14, 3237-3239.