ニトリルの合成方法
ニトリルは-CNの構造をもつ官能基で様々な官能基に変換できるため有用です。
変換できる官能基としてはアミドやエステルといったカルボン酸誘導体からアミン、アルデヒドなどから付加環化によりテトラゾールの合成にも使えます。
- アミド
- エステル
- カルボン酸
- アルデヒド
- アミン
- 環化(テトラゾール etc)
ニトリルを導入する利点はいくつかあります。
- 様々な官能基に変換可能
- 1炭素増炭できる
脂肪族ニトリルの合成
シアン化カリウムとハロゲン化アルキルの反応
いわゆる青酸カリウム(シアン化カリウム)はシアン化物イオンからなる塩で求電子的基質(ハロゲン化アルキル)などと反応して簡単に導入できます。
極性溶媒中(アルコールやDMF、DMSO)でKCNと混合、加熱還流して得られます。
ハロゲン化アルキルはヨウ化アルキルがもっとも反応性が高く、塩化アルキルは反応性が低いです。反応促進のためにヨウ素を添加します。
一般的に第二級や第三級ハロゲン化アルキルでは脱離反応によりオレフィンが生成しやすいです。
この場合エチレングリコールを溶媒とするとオレフィンの生成が抑えられることが報告されています。
Lewis, Richard N., and Peter V. Susi. “Synthesis of Nitriles in Ethylene Glycol1.” Journal of the American Chemical Society 74.3 (1952): 840-841.
福井謙一, 吉村安雄, and 北野尚男. “(194) エチレングリコール中における有機ハロゲン化合物とハロゲン化アルカリとの反応.” 工業化学雑誌 58.8 (1955): 600-602.北野尚男, and 福井謙一. “(120) ハロゲン化アルキルとフッ化カリウムとの反応.” 工業化学雑誌 58.5 (1955): 352-355.
有機金属試薬と塩化シアンとの反応
グリニャール試薬試薬などのアルキルアニオンは求電子的な塩化シアンと反応してニトリルが生成します。
塩化シアンは有毒な気体で取り扱いにくいので合成方としては利用しにくいです。
ヒドロシアノ化(アルケンへの付加反応)
アルケンに対してHCNを付加させてニトリルを合成する方法はナイロン製造の前駆体であるアジポニトリルの製造など工業レベルで利用されています。
この手法は有毒なシアン化水素を利用するため、実験室レベルでは使いにくいです。
ヒドロシアノ化研究の注目点としては
- 電子求引性基を持たない不活性アルケンに対する反応(末端オレフィン等)
- 選択性
- シアン化水素を使わない
などがあります。
Buchwaldのグループは毒性のあるシアン化水素を使用せずにオキサゾールを付加させた後に分解することによってシアノ化を達成しています。
Schuppe, Alexander W., Gustavo M. Borrajo-Calleja, and Stephen L. Buchwald. “Enantioselective olefin hydrocyanation without cyanide.” Journal of the American Chemical Society 141.47 (2019): 18668-18672.
また、アセトニトリルとジクミルペルオキシド(DC)、CuIを用いたラジカル付加でシアノ化を達成しています。
Li, Zejiang, Yingxia Xiao, and Zhong-Quan Liu. “A radical anti-Markovnikov addition of alkyl nitriles to simple alkenes via selective sp 3 C–H bond functionalization.” Chemical Communications 51.49 (2015): 9969-9971.
アミンの酸化
アミンを酸化することでニトリルを得ることができます。
アルコールのシアノ化
アルコールは脱離能が低いので、シアノ化する時はハロゲン化した後に導入するか光延反応を利用します。
Navid Soltaniのグループはアルコールに直接導入する方法を報告しています。
トシルイミダゾールとNaCNを用いた方法でアルコールを直接シアノ化できます。
Rad, Mohammad Navid Soltani, et al. “A simple one-pot procedure for the direct conversion of alcohols into alkyl nitriles using TsIm.” Tetrahedron Letters 48.38 (2007): 6779-6784.
アミドの脱水
アミドを五酸化リンなどの脱水剤を用いて反応を行うとニトリルが生成します。
芳香族ニトリルの合成
シアン化ナトリウムと芳香族スルホン酸塩の溶融
ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸塩とシアン化ナトリウムを高温下で混合させると芳香族ニトリルを生成します。
アミノ基やケトンがあっても影響を受けません。
ザンドマイヤー反応
ザンドマイヤー反応でニトリルを芳香環に導入することが可能です。
ザンドマイヤー反応: Sandmeyer Reaction
炭化水素への直接導入
芳香族炭化水素に直接ニトリルを導入する方法も報告されています。
喜多祐介. “炭化水素からの直接ニトリル合成反応.” 有機合成化学協会誌 72.8 (2014): 940-941.
Zhang, Wen, et al. “Enantioselective cyanation of benzylic C–H bonds via copper-catalyzed radical relay.” Science 353.6303 (2016): 1014-1018.
参考文献
土田卓, and 小方芳郎. “ニトリルの反応とその製造.” 有機合成化学協会誌 14.6 (1956): 378-393.