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カルボン酸を還元してアルデヒドを得る方法

カルボン酸をアルデヒドに直接還元

カルボン酸を部分還元してダイレクトにアルデヒドを得る方法はほとんど知られていません。

いくつかの合成方法がありますが、再現性や汎用性に欠けていて実用上問題があります。

例えばLiAlH4を1/4当量加えて反応させる方法がありますが、生成したアルデヒドが還元されやすいため、アルデヒドを単独で高収率で得るのは困難です。

実際にカルボン酸からアルデヒドを合成するときはカルボン酸をアルコールまで還元して酸化によりアルデヒドを合成するか、エステルや酸塩化物に変換してから部分還元を行うのが一般的です。

DIBALを使ったカルボン酸のアルデヒドへの部分還元

DIBALはカルボン酸を部分還元してアルデヒドを得るのに利用されています。-78℃という低温で反応させることによってカルボン酸をアルデヒドに選択的に還元できます。もちろんDIBALはアルデヒドをアルコールに還元することも可能なので温度や当量などは気を付ける必要があります。

スムーズに還元できた場合は結構高収率で得られます。何度かDIBALの還元でアルデヒドを合成したこともあります。

基質によってはマイルドな酸化反応でアルデヒドを合成しても、結構副生成物が生じてしまい、汚くなることがあります。

基質によっては還元でアルデヒドを合成したほうがきれいに得られると思います。過酸化したアルコールはアルデヒドに酸化すればよいです。精製せずにそのまま酸化することもあります。

反応例1
DIBALでカルボン酸をアルデヒドに還元

Cons, Benjamin D. et al Organic Letters, 15(8), 2046-2049; 2013

水素化ジイソブチルアルミニウム(6.62ml、6.62 mmolヘキサン中1M)を-78℃、N2下、CH2Cl2(40ml)、原料(2.5g、6.31mmol)の撹拌溶液に滴下した。反応物を-78℃で6時間撹拌した後、飽和ロシェル塩溶液(100ml)の添加によりクエンチし、抽出、カラムにより精製して目的物を得た(1.78 g、6.15 mmol、98%収率)。

DIBALは脂肪族アルデヒドだけでなく芳香族アルデヒドも還元可能です。桂皮酸も高収率でアルデヒドに還元可能です。

電子不足な安息香酸や立体障害の大きいカルボン酸の還元は苦手なようです。

滴下スピードが影響するのかもしれませんね

カルボン酸をNi触媒で直接アルデヒドに還元

カルボン酸の効率的なアルデヒドへの還元方法はほとんど見つかっていません。

2002年GooßenらのPd(OAc)とピバル酸無水物や次亜リン酸ナトリウムなどを用いた反応ではニトリル、アセトアミド、メトキシ、アセチルを置換基として含む安息香酸や桂皮酸、及び脂肪族カルボン酸を59~75%の収率で得られていますが、たくさん試薬を加える必要がある点で操作が煩雑であり、収率も中程度、汎用性の課題もありました1)

Goobenらのカルボン酸の直接部分還元法

Goobenらのカルボン酸の直接部分還元法

Zhangらは2017年にヒドロシランを用いたフォトレドックス還元によりアルデヒドを効率的に得る方法を報告していますが実用性の問題があります。

Losubらが2019年に報告したニッケル触媒を利用した方法は複雑な操作は不要でこれまで報告されてきたものよりも基質適応性が広く、高収率であるという特徴があります。

Iosub, Andrei V., et al. “Nickel-Catalyzed Selective Reduction of Carboxylic Acids to Aldehydes.” Organic letters (2019).

ニッケル触媒はNi(cod)2のように空気中で不安定な触媒ではなく、NiCl2(dme)のような二価Niを使用し、0価ニッケルをin situで発生させるために亜鉛を加えています。

この反応では二炭酸ジメチルを加えることによってカルボン酸を酸無水物として還元しています。純粋なカルボン酸の還元というわけではないですね。

ニッケル触媒下のカルボン酸のアルデヒドの還元概要

ニッケル触媒下のカルボン酸のアルデヒドの還元概要

反応条件

反応の条件は以下のようになります。たくさん試薬を入れるのは面倒ですね。

ニッケル触媒下のカルボン酸のアルデヒドの還元条件概要

ニッケル触媒下のカルボン酸のアルデヒドの還元条件概要

この方法では脂肪族アルデヒド(第一級~第三級)、芳香族アルデヒドに適応可能です。割と何でも還元しますが以下のカルボン酸は低収率です。

  1. 不飽和カルボン酸(桂皮酸等)は生成した酸無水物が安定で還元されない
  2. 電子不足な安息香酸(p-CF3)は低収率

それ以外は70%以上の収率で得られます。脂肪族も還元可能でブロモアルキル、フェニルケトン、ケトン、アルケン、エステル、ニトリル、フラン、などが侵されずに還元が進行します。

アリールのカルボン酸の場合は還元されにくく、触媒はNiBr2(H2O)3、60℃の条件が良いようです。

立体障害にも強く、第三級カルボン酸が90%近い収率で得られています。アダマンタナールも88%の収率で得られています。

これらの反応はグラムスケールで実施できることが示されています。

DIBALと比べた時の有用性については、胆汁酸の一種であるリトコール酸の還元で示されています。

3eqのDIBALで還元した場合はアルデヒドが41%なのに対して、ニッケル触媒での還元では73%で得られています。

リトコール酸の還元における有用性

リトコール酸の還元における有用性

一般的操作法

還流管を付けたオーブン乾燥した50 mlの2つまたは3つ口丸底フラスコをN2置換しNiCl2(dme)(0.1 mmol、22 mg)、dtbbpy(0.2 mmol、53.7 mg)および脱水EtOAc(10 ml)を加えて、10分間激しく攪拌し、カルボン酸(1 mmol)およびZn(0.2 mmol、13.1 mg)、続いて2,6-ルチジン(1.1 mmol、127μL)およびDMDC(2 mmol、215μL)を加え、混合物をさらに15分間撹拌しました。次に、ジフェニルシラン(2.25mmol、418μL)を添加し、反応物を40〜80℃で16〜24時間激しく撹拌した後に冷却、濃縮(揮発性アルデヒドに注意)してカラム精製により目的物を得た。

中間体を介して還元する方法

カルボン酸から直接還元するよりもエステルや酸塩化物を介したほうが還元しやすいため、中間体としてTMSエステルを介して還元させる方法も報告されています。TMSはアルコールやアミン等でも一時的な保護に良く利用されています。カルボン酸から直接DIBALで還元すると長時間あるいは高めの温度が必要となる場合があり、これによりアルコール体が生成しやすくなりますが、この方法では30分という短時間でアルデヒドに変換できます。

Chandrasekhar, S., M. et al Tetrahedron letters 39.8 (1998): 909-910.

やり方は簡単でカルボン酸に対して1eqのTMSClとTEAを0℃で撹拌した後に1eq DIBALを加えて30分間撹拌するだけです。ニトロ安息香酸などの電子吸引基を持つカルボン酸は還元されにくいようです。

カルボン酸塩を9-BBNで還元

9-BBNはカルボン酸と反応して水素を発生させてボランエステルを作ります。これをLiAlH4などの還元剤で還元してアルデヒドを合成する方法や水素化リチウムと9-BBNから調製するLiH9-BBNを用いて部分還元する方法がありますが、試薬の入手性が低かったりする問題があります。カルボン酸塩(Li塩、Na塩)を誘導することにより9-BBNを用いて室温でアルデヒドに部分還元できることが報告されています。特に脂肪族アルデヒドの合成に向いているようです。アルケンがあるとヒドロホウ素化が進行する可能性があるので注意ですね

Jin Soon Cha et al, Heterocycles, 27, 7, 1988, 1595- 1598 DOI: 10.3987/COM-88-4570

参考

1)Gooßen, Lukas J., and Keya Ghosh. “New Pd-catalyzed selective reduction of carboxylic acids to aldehydes.” Chemical Communications 8 (2002): 836-837.
2)Zhang, Muliang, et al. “Selective reduction of carboxylic acids to aldehydes with hydrosilane via photoredox catalysis.” Chemical Communications 53.73 (2017): 10228-10231.

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