伸び縮みする物体といえばまず最初に思い浮かぶのはバネとゴムではないでしょうか?でもなぜゴムが伸び縮みするのか?と聞かれたらそれを答えるのは難しいのではないでしょうか?ゴムは自分の全長の数倍も伸びた後、元の状態に戻ることができるとても面白い物体です。このような伸び縮みする理由なんでしょうか?
ゴムが伸び縮みする秘密は硫黄にあった!
ゴムが伸び縮みする理由は、ゴムを作っている分子の構造に秘密があります。
天然ゴムの原料はゴムの木からとれる樹液です。この樹液中にはイソプレンと呼ばれる直線状の化学物質が含まれています。下の図のような形をした分子(共役した炭化水素類からなる分子)です。
このイソプレンを一つの単位として複数つながることを重合といいます。重合によっていくつも結合すると長い鎖状の分子「ポリイソプレン」ができます。ポリイソプレンはいわばただの糸のようなもので引っ張っても伸び縮みしにくく、普段目にするゴムの性質とはかけ離れています。それではどうするか?というと加硫をします。
加硫とは文字の通り、硫黄を加えることです。硫黄はちょうど直鎖の分子同士をつなぐ(架橋する)ようになります。
この架橋がいくつも入るとまるで網のような構造になります。この網目構造があると、柔軟性が生まれます。
この硫黄の結合は炭素同士の結合と比べて自由度があるため、自由に動くことができます(結合の角度がくるくる動きやすい)。
網目構造が弾性の秘密!
網目構造が直線状よりも柔軟性があって、引っ張ると伸びる理由は何となくわかったと思いますが、なぜ伸びた状態から戻ろうと宇する力が生まれるのかを疑問に思うかもしれません。そこで、伸びたり縮んだりするのかもう少し別の広い視点でから考えてみましょう。
下の図のようにゴムが縮んでいる時はポリイソプレンは不規則に配置しています。このポリイソプレンは常に振動して動いている状態になっています。隙間がたくさんあるので直線状になったり折れ曲がったり自由に動けます(エントロピーが高い状態)。
一方、縮んだゴムを伸ばすと不規則な状態からより整列した状態に変化します。引っ張られている時はゴムの分子がとりうる形は直線状など一部の形しかとれなくなります(エントロピーが低い・エネルギーが大きい)。そのため引張りをやめたらもとのゴムが縮んだ状態にもどろうとする力が生まれます(エントロピーが低い→エントロピーが高い)。これによって伸ばされたゴムは元に戻ろうとするわけです。このような現象はエントロピー弾性とよばれています。
ゴムは重要な高分子材料!
ゴムは最も古くから利用されている天然の高分子材料のひとつです。これまでに石油から合成するプラスチックなどがたくさん開発されてきましたが、いまだにゴムは利用されています。なぜなら、ゴムが特異的な性質を示すからです。
ゴムの重要な性質としては
- 伸び縮みすること
- 密着性が高いこと
- 柔軟性が高いこと
- 加工しやすい
などがあります。実は加硫のメリットは伸び縮みしやすくするだけでなく耐久性や機能を向上させる働きもあります。
例えば加硫が開発される前ではゴムはすぐに腐敗してしまったり、高温ではすぐにべと付いて粘着してしまったり、耐温度、耐候性、耐久性などが悪いことが欠点でしたが、加硫によって大きく改善されました。
現在ゴムには硫黄だけでなく炭素や炭酸カルシウムなど様々な添加剤を加えて性質を変化させています。タイヤのゴムが黒いのは炭素を加えているからです。
大北忠男. “総論 「最適加硫の諸問題」.” 日本ゴム協会誌 39.5 (1966): 322-328.ARIGA, Nozomi. “Crosslinking of Rubbers.” Nippon Gomu Kyokaishi 87.3 (2014): 77-82.
化学は扱う対象によってたくさんの分類があります。主に扱う元素の違いによれば、無機化学と有機化学とわかれます。化学は扱う分子量の違いによって分類すると高分子化学と低分子化学に分かれます。低分子化学という呼称は使われませんが、あえて分けるとすると有機合成化学がそれにあたります。高分子化学は巨大な分子を扱う化学の分野でそのなかでもゴムは重要な研究対象です。ゴムは最も古くから知られる高分子材料のひとつであり、今もなお生活で利用されています。プラスチックが合成樹脂と呼ばれるのも天然ゴムや松脂が樹木の樹液からできていることが由来になっています
ゴムの研究ができる研究室
京都工芸繊維大学 天然高分子材料学研究室
京都工芸繊維大学では2016年よりゴム科学センターというものを立ち上げてゴムの科学研究を行っています。ゴムの加硫機構やゴムの特性分子機構の解明などを行っています。
http://www.cis.kit.ac.jp/~yuko/index.html
東京工業大学 中嶋研究室
プラスチック(合成樹脂)が大活躍する現代でもいまだにゴムは現役の高分子材料のひとつです。ゴムの持つ弾性の秘密を解明するとともにそれを応用することによって、プラスチックとしての性質を合わせ待ったゴムの代替品材料・熱可塑性エラストマー(TPE)の研究を行っています。熱可塑性エラストマーはABS樹脂などの熱可塑性樹脂のように高温では液体となり再成型しやすい製紙室(熱可塑性)を持ちながら、常温帯ではゴムのような弾性を持つ材料のことです。http://nanomech.polymer.titech.ac.jp/