エステルは還元によってアルデヒド及びアルコールが生成します。
カルボン酸よりもエステルは取り扱いやすく、容易に還元されるため、カルボン酸をアルコールに還元する時はエステルにしてから還元することも多いです。
アルデヒドを得る方法としてもいまだにアルコールまで還元後に酸化でアルデヒドを合成する方法が主流ですが、エステルを部分還元してもアルデヒドが得られます。
試薬としてはDIBAL・ー78℃の条件が良く利用されますが、LiAlH4やRed-Alも使えます。
エステルの部分還元でアルデヒドを合成
カルボン酸の部分還元でアルデヒドを得るよりもエステルを還元してアルデヒドとしたほうがやりやすいです。
カルボン酸の還元でもDIBALを低温で反応させますが、エステルの還元でも同じ条件で行います。
試薬としては
- LiAlH4
- DIBAL
- Red-Al
があります。LiAlH4は反応制御や取り扱いが難しいので避けることが多いかもしれません。エステルの還元剤としては主にDIBALとRed-Alを使います。
チオエステルの場合はPd/Cとトリエチルシランで還元する方法が選択性が高くて便利です。選択性が高いので天然物合成でよく利用されています。
反応条件
反応はー78℃で行います(ドライアイス・アセトン浴)。-30℃くらいまで温まるとアルデヒドの還元も進行するので低温に保ち、試薬の滴下スピードが速くなりすぎないように気を付けます。
溶媒としてはジクロロメタン、トルエン、THFあたりをよく使います。基質の溶解性などに合わせて使用したらよいと思います。
DIBALによる還元例
水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H、ヘキサン中1.0 M、12.7 mL、12.7mmol)をメチルエステル(3.05 g、10.6mmol)のCH2Cl2(106 mL)溶液にN2下で-78°Cで滴下しました。 -78℃で30分間撹拌した後、MeOH(25 mL)および飽和NH4Cl水溶液(12.7 mL)を加えて反応を停止し、室温まで温めた。混合物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、セライト濾過した。濾液を真空で濃縮し、残渣をカラムにより精製して95%で得た。
-78℃で反応させることにより、エステルをアルデヒドに還元することが可能です。-78℃よりも高い温度で反応させるとアルデヒドが還元してアルコールになるので注意深く滴下する必要があります。しかし、エステルの種類によってはアルデヒドへの還元により高い温度が必要になることもあるため、非常にコントロールが難しいです。
DIBALによる還元例2 – モルフォリンを加える方法
DIBALとモルフォリンを反応させて生じた金属アミドを用いてモルフォリンアミド(ワインレブアミドの一種)としてから続いてDIBALで還元する方法です。実際はアミド経由でアルデヒドを合成していますが、1potで合成できます。
脂肪族アルデヒドは多少収率が落ちますが、アルデヒド・ケトンを高収率で得ることができています。脂肪族アルデヒドは還元剤としてDIBALとn-BuLiより調整したLDBMAを用いたほうが収率が良いです。
モルホリン2.1eq、DIBAL2.0eqをTHF溶媒中で0℃Ar下で3時間攪拌後、エステル1.0eqを滴下して加えて10分間撹拌、次にアミドを還元するためにDIBAL1.1eqを加えて10分間撹拌後、1M塩酸でクエンチして精製操作をして目的物をえる。
LDBMAの調製
メタノール(2.23 mL, 55mmol),THF(25 mL)を0℃に冷却し、n-BuLi (20 mL, 50 mmol, 2.5 mM)を滴下して加えて室温に戻して1時間攪拌、DIBAL(50 mL, 1.0 M 50 mmol)を滴下して加えて2時間攪拌して透明の液体を得る。
脂肪族アルデヒドの調製
モルホリン2.1eq、DIBAL2.0eq, THF(100mM)を0℃Ar下で3時間攪拌後、エステル1.0eqを滴下して加えて10分間撹拌、次にLDBMA(1.3 eq 0.46 M)を加えて10分撹拌、1M塩酸でクエンチして抽出、精製操作を行って目的物を得る。
Jeon, Ah Ram, et al. “Mild and direct conversion of esters to morpholine amides using diisobutyl (morpholino) aluminum: application to efficient one-pot synthesis of ketones and aldehydes from esters.” Tetrahedron 70.29 (2014): 4420-4424.
Red-Alによる還元
乾燥したフラスコ内で、不活性雰囲気下で、Red-Al溶液(189μL、トルエン中65%(w / w)1eq)を脱水トルエン(3 mL)で希釈しました。 0℃に冷却した後、蒸留したN-メチルピペラジン(77μL 1.2eq)を滴下し、溶液を20分間撹拌した。 0℃に冷却した脱水トルエン(5 mL)に溶解したエステル体(100 mg、175μmol、1当量)の溶液に、Red-Al溶液を滴下しました(水素化物630μmol、3.5当量)。攪拌と共に薄緑色の着色が急速に発生しました。 0℃で7時間撹拌した後、水を加え(2mL)、得られた二相混合物をセライト濾過した。濾液をジクロロメタンで希釈し、水とブラインで洗浄した。クルードをカラム精製し、ペンタンで沈殿させて79%の収率で得た。
Red-Alを使用する場合、メチルピペラジンやモルホリンを加えて反応させます。この方法はナフタレンのエステルからアルデヒドを得る方法として適しています。
Hagiya, Kazutake, Sunao Mitsui, and Hiroaki Taguchi. “A facile and selective synthetic method for the preparation of aromatic dialdehydes from diesters via the amine-modified SMEAH reduction system.” Synthesis 2003.06 (2003): 0823-0828.
上の例よりもcis-2,6-ジメチルモルホリンを添加したものでは室温・短時間(30min)、高収率でエステルをアルデヒドに部分還元できるという報告があります。こちらの方法のほうがより多くの基質で良い結果を与えます。脂肪族アルデヒドも9割近くの収率で得られます。
Shin, Won Kyu, Daehoon Kang, and Duk Keun An. “Partial Reduction of Esters to Aldehydes Using a Novel Modified Red-Al Reducing Agent.” Bulletin of the Korean Chemical Society 35.7 (2014): 2169-2171.