トリエチルシランは主に還元反応に使用する有機ケイ素化合物です。トリエチルシランの還元反応の適応例は広いですが、逆に選択性が低いともとれます。
トリエチルシランはカルボニル基の脱水素化などに利用されています。
トリエチルシランとは?有機ケイ素化合物による還元
ケイ素は金属の非金属の中間とよく言われています。その一つが電気陰性度です。
ポーリングの電気陰性度では1.9を示す若干電気陽性の原子です。 Al1.61 やNa 0.93、水素は2.2を示します。
ケイ素ー水素結合は若干分極しています。
ケイ素の特徴は炭素と安定な結合を形成できる点です。これにより構造多様性が高くなります。
有機ケイ素化合物は他の有機金属化合物と比べて水に安定で、疎水性が高く有機溶媒への溶解性が高く、低分子のシラン以外は自然発火しにくいという特徴があります。
トリエチルシランは適用性が広く温和な還元剤です。
特徴や利点は
- 高い安全性
- 重金属ではなく環境にやさしい
- 官能基適応性が広い
- 安定性が高い(湿気や空気)
- ラジカル機構とイオン機構どちらの反応も起こりうる
トリエチルシランによる還元は様々な官能基に対して進行します。例えば、アルケン、ハロゲン、カルボニル、アルコール、アセタール、カルボン酸、アミド、エステル、ニトリル、アリールニトロ、チオール、スルフィド、リン化合物が還元されます。
トリエチルシランの反応は
- アルケンの水素還元
- ヒドロシリル化(アルケン・カルボニル)
- アルコールのシリルエーテル化
- ハロゲン化物の還元
- アルデヒド・ケトンの還元
- アセタール・ケタールの還元
などが知られています。
トリエチルシランはイオン機構とラジカル機構どちらの機構でも進行することから、NaBH4とトリブチルスズの間に位置するユニークな還元剤です。
脂肪族ケトンのアルコール・芳香族ケトンのメチレンへの還元
芳香族ケトン(ベンゾフェノン等ベンジル位のケトン)はトリエチルシランと適当な酸(トリフルオロ酢酸)条件下で還元されてメチレンを生成します。(条件によってアルコールを生じる)
ケトンの脱酸素化反応は激しい条件や重金属が必要である場合が多いのでこの方法は有用です。(例:クレメンゼン還元:HCl、水銀)
カルボン酸やアミド、ニトリル、ハロゲン、ニトロ基は還元されない利点があります。
個人的に芳香族ケトンのメチレンへの還元はシラン還元をよく使います。
なお、アルデヒド、ケトンを塩酸水溶液中などで反応させるとアルコールが得られます。
酸触媒としては四塩化チタンが良いと言われています。
脂肪族のケトンはアルコールに還元されます。
アルデヒドのアルコールへの還元は別法を用いたほうが良いです。
酸塩化物のアルデヒドへの還元
脂肪族・芳香族の酸塩化物はトリエチルシランとPd/Cとともに用いるとアルデヒドに還元することができます。
ヒドロシリル化
アルケンやカルボニルの二重結合に付加してシリル化・シリルエーテル化します。
ケトンのシリルエーテル化はウィルキンソン触媒を使うことが多いです。
ハロゲンの還元
アルキルハライドはカルボカチオン中間体を経て進行すると考えられています。
したがって、酸触媒下でカルボカチオンが生成しやすい第三、二級、アリル、ベンジルハライドが還元されやすいです。
酸としてはBF3やTFAが利用されます。
第一級クロロアルキルも塩化アルミニウムとともに用いることによって中程度の収率でアルカンを得ることができます。
ラジカル開始剤と共に用いるとラジカル機構でハロゲンを水素化できます。
ハロゲンの反応性はBr>Clの順であり、ヨウ素とフッ化物は反応性が低いです。
しかし、第三級フッ化アルキルの場合は還元されている例があります。
アリールハライドはパラジウム炭素と共に用いればCl, Brを還元できます。
アルコールの還元
アルコールの還元もカルボカチオン中間体を経て進行します。
ベンジルアルコールはTFAおよびBF3存在下で還元されてトルエン誘導体に変換されます。
脂肪族アルコールはカルボカチオン中間体を生成しやすい第三級・第二級アルコールが還元されます。
不飽和結合の還元
アルキン及びアルケンはトリエチルシランによって還元されます。多置換アルケンが還元されやすく、酸としてBF3やTfOHを使用すると多置換アルケンでなくてもアルカンに還元できます。
副生物のシロキサンの除去法
トリエチルシランの複製物であるヘキサエチルプロパンジシロキサンは低極性で沸点231度の液体であり、カラムや加熱減圧留去で除去可能です。
シロキサン自体は不活性であるため、副反応を起こす心配は少ないです。熱に安定な場合は100℃以上に熱して留去するか、極性が低いのでカラムで低極性成分を流すと除去できるはずです。
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