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放射能泉の効果と効能 放射線の危険性はないの?

温泉の効果1

放射能泉は放射能を持つ元素・ラドンを成分として含む温泉のことです。通常は避けたほうが良い放射線ですが、微量であるためむしろ体に良い効果を与えるという主張もあります。果たして科学的にみて安全性や効能はどこまで検証されているのか紹介します。

放射線がでる温泉?放射能泉とは?

ラドンは原子番号86番目の元素でヘリウムやネオンなどと同じ希ガスと呼ばれる18族元素の一つです。

希ガスは全ての元素の中で最も安定な元素グループで、化学的に安定で、生体内の分子とは化学的な反応はしません。

しかし重い元素であるため、原子核が不安定で、より安定な核種に変化しようとします。これがラドンが放射性をもつ理由です。

放射能泉に存在するラドンはラドン222(半減期約3.8日)とラドン220(半減期55秒)です。ラドン222はα崩壊してポロニウム218に変化します。

放射能泉はこのようにラドン自体やラドンによって生成する各種放射性物質による影響が放射能泉の効果となります。

ラドンが放射線を出す仕組み

放射性元素は原子核が不安定なため、安定な状態に自発的に変化していきます。

この際に放射性核種は放射線を放出して安定な状態に変化します。

ラドンはα崩壊をしてα崩壊は放射線としてα線(ヘリウム原子核)を放出して別の核種に変化する現象です。

ラジウム226は陽子88個、中性子138個を持つ放射性の元素です。ラジウムは放射性を持っていてこれはより安定な核種になるためにα崩壊します。

するとラドン222(陽子86個、中性子136個)とヘリウム4(陽子2個、中性子2個)ができます。

ラジウム226 →α崩壊→ラドン222+ヘリウム4(α線)

ちなみにβ崩壊はベータ線(電子)を出して中性子を陽子に変換する現象です。

このように核が分解していって安定な鉛などに最終的に行きつきます。

ラドンはウラン系列と呼ばれるウラン238から始まり、鉛206で終わる崩壊過程のチェーンの中に入っています。

参考 ウラン系列 - Wikipedia取得できませんでした




放射能泉の定義

放射能泉は温泉法という法律の中では放射能泉という分類の一つです。ラドン以外の放射性物質としてラジウムもありますが、日本はラドンが中心のようです。

温泉として認められるためには、温度が25度以上、かつ、基準物質が基準値以上含まれている必要があります。

放射能泉では温泉1kgあたりラドンが74Bq以上含まれている必要があります。

さらに療養泉という治療の目的に利用されるような温泉としては

ラドンが1kg中111 Bq以上含まれていなければなりません。

参考記事のタイトルとURLを入力してください” site=”取得できませんでした” target=”_blank” rel=”nofollow”]

ラドン含有量が多いのは有馬銀泉 2250 Bq/kg, 三朝温泉 146.2 Bq/ kg, 有馬金泉 10.6 Bq /kg, 二股温泉5.6 Bq /kgです。

どのラドンが含まれているのか?によっても効果が異なるといわれています。

(Rn222と比べてRn220(別名トロン)は55秒と半減期短い)

ラドンの安全性は?

放射性物質は原爆や原発などのイメージから、体に悪いという印象を持つ人が多いと思います。

実際にラドンには健康に対する良い影響よりも、悪い影響についての議論のほうが活発です。

ラドンは温泉だけでなく環境中に含まれる放射性物質です。特に屋内ラドンの被ばくが肺がんのリスクとして考えられています。

屋内のラドンが肺がんに与える影響

放射性物質は低用量なら安全であるという説と低量でも蓄積等で危険という2つの意見があります。

WHOでは室内のラドン吸入が肺がんを引き起こすリスクがあるとしてハンドブックを作成しています。

ラドンは体内に入ってから180分後には体内から消失されるから安全といわれています。温泉などは短期間・短時間であるため蓄積などの危険性は少ないとみられています。しかし、ラドン自体の蓄積は少なくとも、ラドンの崩壊によって生じるポロニウムなどは組織に沈着すると考えられるため、短期間であれ危険性があるという見方もあります。

現状は、高濃度のラドンの長期間の吸入に関しては肺がんのリスクなどがあるとされていますが、放射能泉につかるなど短期間のラドン暴露は安全と考えてよさそうです。

ラドンを含む水を飲むと胃がんになるのでは?と感じる方もいるかもしれませんが、そのような研究結果は現状ないです。


放射能泉の効能:ホルミシス

空気中のラドンとは異なり水中のラドンの影響については世界的にはあまり研究されていないようです。

石川徹夫, 床次眞司, and 山田裕司. “水中ラドンに起因する健康リスク.” Radioisotopes 52.4 (2003): 203-209.
これは入浴に関するラドンの効果についても同様です。温泉が多い日本では活発に研究されています。
ラドン・放射線被ばくの健康に関する影響は高線量の場合は明確に人体にとって有害であると言えますが、低線量の場合は人体に悪影響か?良い影響を与えるのか?について調べるのは難しいです。
長時間・反復利用では悪影響を与えるが、短期間・小容量では体に良い影響を与えるものも多いです。
毒は量が多いと毒ですが、量が少ないと薬になったりするのと同じ現象です。
このように有害となるしきい値を超えない低用量を用いることで良い影響をもたらすことをホルミシスといいます。
放射線に関してもホルミシスを主張している人たちがいます。

放射能泉の放射線ホルミシス仮説は妥当?

放射線被ばくに関しては3つの仮説で議論されています。
  1. しきい値仮説
  2. しきい値なし直線仮説:LNT仮説
  3. ホルミシス仮説

です。

しきい値仮説とは有害なしきい値を超えると初めて有害性が確認でき、それ以下であれば有害な効果はないとみる仮説です。

しきい値なし直線仮説とは、しきい値などはなく、量が少なければ有害性が直線的に減少するだけで、有害性があることには変わりないという説です。

ホルミシス仮説はしきい値以下であれば有害というよりもむしろ有益な作用があるとみる説です。

どの説を主張するかはその立場によることが多いようです(原子力発電関係者などはホルミシス仮説を支持する傾向)。

国際的にはしきい値なし直線仮説が支持され、この仮説のもと議論されています。被ばく量はできるだけ少ないほうが好ましいという意見です。

この主張に従うなら放射能泉は好ましくないということになります。しかし、本当にそうでしょうか?

ホルミシス仮説が提唱される理由

そもそも放射線はもとより悪いイメージが多いのになぜ放射能泉の効能をうたったり、ホルミシス仮説が提唱されているのでしょうか?

これはある研究報告がもとになっているように思えます。

三朝温泉で知られる三朝地区は日本国内平均の3倍のラドン濃度があります。しかし、この地区においてがん死亡率が低い原因を調べた研究によると、検査の結果がん抑制遺伝子p53の発現レベルが2倍高く、酸化ストレスにかかわるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性も優位に高かったとう研究結果があります。これがラドンによる被ばくがむしろがんの抑制機構を活性化させているのではないか?という予想を立てています。

この研究結果はホルミシス仮説を支持する内容の一つと考えられます。

しかし、他の欧米地域と比べてラドン濃度は低く、生活習慣による影響も否定できないとされています。また、6年後にYeら別のグループが同じ三朝地区の疫学調査を行ったところがん抑制効果は見られず、肺がんはむしろ増加傾向であったという報告がされています。

YeW,SobueT,LeeV.S.etal.:MortalityandCancer Incidence in Misasa,Japan,aSpaAreawith ElevatedRadon levels.Jpn.J. Cancer Res.1998;89:789-96.

別の研究ではSOD活性やキラーT細胞活性など免疫機能が高まるという報告もあります(温泉やサウナによる温熱効果による可能性が高い?)。

放射能泉水を引用するとがんの増殖や転移が抑制されたという報告もいくつかあります。

岩永剛. “温泉とがん.” 癌と人 36 (2009): 15-25.
ホルミシス仮説については生物の個体差、放射線の種類、放射性核種の種類、暴露の方法などにより閾値が変化すると思われるため
食品の効能などと比べて閾値を導き出すのはなかなか難しそうです。

ラドンによる健康効果を示した研究例

古くから温泉に親しんでいただけあって、ラドンなどの放射能泉に関する医学的研究に関しては日本が最も進んでいます。

放射能泉が与える人体への影響を調べた研究は1939年に岡山医科大学三朝温泉療養所の開設されるなど昔からやられています。

ラドン療法による適応症は

  • 非細菌性炎症
  • 慢性多発性関節炎(関節リウマチ等)
  • 気管支喘息

などがあります。

岡山大学病院三朝医療センターでは約2~4000Bq /m3のラドン熱気浴室でラドン浴する治療法の効果を研究しており、世界的にも有名なようです。世界的には欧州オーストリアのバドガンシュタインで古くから関節リウマチなどの疼痛治療の目的でラドン療法が実施されています。

西山祐一, 片岡隆浩, and 山岡聖典. “ラドンの健康影響に関する一考察 ラドン療法の効果と機構に関する最近の研究動向.” 日本原子力学会和文論文誌 12.4 (2013): 267-276.
放射能泉水・濃度850 Bq/Lに入浴した際、ラドンの最終的な呼気濃度は4kBq/m3に達することからラドンの皮膚吸収量は多いと予想されています。
Tempfer, H., et al. “Biophysical mechanisms and radiation doses in radon therapy.” Radioactivity in the Environment. Vol. 7. Elsevier, 2005. 640-648.
岡山大学の山岡らはラドンの健康影響に関してこれまで明らかになっていなかった基礎医学的な視点から精力的に研究しています。
実験動物レベルで酸化ストレスに関わる抗酸化酵素であるカタラーゼやスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、総グルタチオン(tGSH)など活性・発現量が向上していること、過酸化脂質量が減少していることを報告しています。
Nakagawa, Shinya, et al. “Basic study on activation of antioxidation function in some organs of mice by radon inhalation using new radon exposure device.” Radioisotopes (Tokyo) 57.4 (2008): 241-251.
SOD活性は部位によりますが、脳と肺は感受性が高いらしく低濃度ラドン(250Bq/m3)を1日間吸入するだけでもSOD活性が顕著に亢進することを発見しています。肝臓と脾臓はより高いラドン濃度(1000 Bq/m3)で亢進するようです。
Kataoka, Takahiro, et al. “Study of the response of superoxide dismutase in mouse organs to radon using a new large-scale facility for exposing small animals to radon.” Journal of Radiation Research 52.6 (2011): 775-781.
臨床研究は関節リウマチや硬直性脊椎炎患者に対する効果は欧州で行われており、主に併用用法が実施され、痛みや薬物投与量の低減などに効果があるという報告があります。機構として疼痛抑制効果のある内因性オピオイドの発現促進するTGF-β1の増加が関与していると推測されています。しかし、併用療法であることからラドンの寄与がどれだけあるか?は明らかではないです。
Franke, Annegret, Lothar Reiner, and Karl-Ludwig Resch. “Long-term benefit of radon spa therapy in the rehabilitation of rheumatoid arthritis: a randomised, double-blinded trial.” Rheumatology international 27.8 (2007): 703-713.
エビデンスレベルの高いとされるメタアナリシスが2005年Falkenbachらにより行われ、ラドン療法には疼痛の緩和に一定の効果があるという結果が得られています。
Falkenbach, Albrecht, et al. “Radon therapy for the treatment of rheumatic diseases—review and meta-analysis of controlled clinical trials.” Rheumatology international 25.3 (2005): 205-210.
医薬品の評価においては、投与した医薬品量に応じて生体応答レベルが上昇するか?といった容量依存性・用量反応関係を観察するのが重要とされますが、ラドン療法においては低用量ということもあり、ラドン濃度の上昇に伴う酵素レベルあるいはホルモン分泌量i)の直接的な相間関係は得られていないようです。
i) Nishiyama, Yuichi, Takahiro Kataoka, and Kiyonori Yamaoka. “Study on Health Effects of Exposure to Radon Recent Studies on Effects and Mechanisms of Radon Therapy.” Transactions of the Atomic Energy Society of Japan 12.4 (2013): 267-276.
ラドンに対する健康効果は多岐にわたるとして様々な研究が行われています。例えば肝障害の抑制効果、すい臓の酸化ストレス低減効果、炎症の抑制などが研究されています。

まとめ

放射能泉に関する効果は低線量の放射線被ばくによるホルミシス仮説によるものです。

ラドンによる良い健康効果を裏付ける研究としてがん抑制遺伝子の発現上昇やSOD活性が高いという報告などがあります。

しかし、がん抑制効果を調べた疫学調査に関してはプラスの報告とマイナスの報告がどちらもあるためがん抑制効果があるというように結論付けるのは難しいと思われます。

実験動物レベルとしてはラドン吸入させたマウスのSOD活性、カタラーゼ活性、過酸化脂質量の測定を行ったところSOD・カタラーゼ活性が上昇し、過酸化脂質が減少したという報告がありますが、放射線によって生じるといわれるヒドロキシラジカルの消去能はこれらの酵素にはないのでメカニズムの解明が求められています。

矢野一行. “放射能泉の温泉医学的効果.” 日本温泉気候物理医学会雑誌 77.2 (2014): 108-119.

放射能泉による効果に関する科学的な根拠はまだ十分ではないように思えます。がんに対する効果などに関してエビデンスレベルの高い研究報告は見つけられませんでした。一方で、疼痛を抑制する効果というものについては詳しいメカニズムは不明なものの一定の効果が得られるというメタアナリシスの結果が報告されています。

ラドン(気体・半減期約3日)という性質上、低用量・長期的な健康効果を調べる実験系の構築は結構難しそうですね。

最後に、人体に放射線は何らかの作用をもたらすため、効果がないと主張するわけではありません。むしろ、ラドンの効果に関してはポジティブな複数の研究報告があります。

基本的にRn222を含む放射能泉に関する危険性はほとんど無く、安全であると考えてよいと思います。効果・効能に関しては詳しいメカニズムが不明であるものの、臨床レベルで関節リウマチ等の疼痛を軽減される作用などが確認されています。しかし、使用ラドン濃度がバラバラであったり、用量依存性などがとれていないことから、さらなるメカニズムの解明やエビデンスの蓄積が必要と思います。

なんにせよ温泉に入ることで楽になる疾患はいくつもあるので寒い季節は温泉に浸かってみるのも良いと思います。

参考資料

1) 西山祐一, 片岡隆浩, and 山岡聖典. “ラドンの健康影響に関する一考察 ラドン療法の効果と機構に関する最近の研究動向.” 日本原子力学会和文論文誌 12.4 (2013): 267-276.

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