プラセボとは「偽薬」のことで、砂糖や小麦粉などの有効成分が全く入っていないものです。
不思議なことにこの偽薬を鎮痛薬の代わりに患者に与えても「疼痛が改善された」と感じる人がいます。
こめやん
こういった効果のことを「プラセボ効果(プラシーボ効果)」と呼びます。
今回はこのプラセボ効果のメカニズムや例を論文を交えて紹介していきます。
目次
プラセボ効果とは?
薬物の効果を検討するときは様々なバイアスなどを排除して本当に効果があるのか?を検討する必要があります。
プラセボ効果は「見た目だけでは見分けのつかない偽物の薬を投与した場合にも症状改善が見られる効果」のことです。
このような効果が現れるのは「薬を飲んでいるという精神的な安心感」が原因であるという説もあります。
そのため、不眠や下痢など精神的な影響が大きい疾患にプラセボ効果は大きく現れるといわれています。
薬物の効果を検討するときは本物の薬剤を与えた群に対して、有効成分が入っていない偽薬を与えた群をネガティブコントロール(陰性対照)として実験を行うことが多いです。
プラセボ効果に対する批判
偽薬を与えた人の中には効果が全く現れない人もいれば、症状が改善されたと感じる人、逆に症状が悪化したり副作用が現れたという人もいます。
こめやん
偽薬と服用効果の間に因果関係があるのでしょうか?
時間経過による自然治癒効果とプラセボ効果
薬物を投与してからその効果を調べるためには、一定の時間経過後に症状を見ていきます。人間には自然治癒力があるので、一定の人は症状の改善がみられているかもしれません。また、症状が悪化している途中であれば、悪化がみられるかもしません。
こめやん
時間経過による治癒効果は病気の種類にもよりますが結構大きいです。
こめやん
中野重行. “プラセボ効果 (反応) の構造的理解.” 薬理と治療 41.4 (2013): 313-317.
治療への期待度とプラセボ効果
プラセボ効果は治療に対する期待度によっても変動するようです。治療への期待感が中程度だった人には強くプラセボ効果が現れましたが、強く期待した人はプラセボ効果が低かったという実験結果が得られています。こうした結果はプラセボ効果の発現には心理的な影響があることを示唆しています。
中野重行, et al. “心身症患者におけるプラセボ効果に関与する要因 医師患者関係, 治療意欲および薬物治療に対する期待度.” 臨床薬理 30.1 (1999): 1-7.
こめやん
条件付けによる効果
条件付けはパブロフの犬で有名です。ブザーを鳴らすと餌が出てくるという条件を繰り返すと、ブザーを鳴らすだけでよだれを垂らすというものです。
中野重行. “プラセボ効果 (反応) に関与する要因.” 薬理と治療 41 (2013): 723-728.
プラセボ効果に関する論文
プラセボ効果に関してはたくさん議論がなされています。
プラセボ効果に関するレビュー論文も投稿されています。
Price, Donald D., Damien G. Finniss, and Fabrizio Benedetti. “A comprehensive review of the placebo effect: recent advances and current thought.” Annu. Rev. Psychol. 59 (2008): 565-590.
プラセボ効果は症状や研究間で大きなばらつきがあることが複数のメタ分析から明らかになっています。
こうした事実はプラセボ効果の発揮に心理的な影響を及ぼしているからかもしれません。薬物投与の環境、薬物の受け取り方は患者に心理的な影響を及ぼす可能性があります。実際に鎮痛薬を医師からの手渡しではなく、いつ薬物が投与されたかわからないような投与法によって効果を見た場合では医師から受け取ったほうが鎮痛効果が大きかったという結果が報告されています1)。
1) Amanzio, Martina, et al. “Response variability to analgesics: a role for non-specific activation of endogenous opioids.” Pain 90.3 (2001): 205-215.
プラセボ効果は持続する
プラセボ効果はその効果がまるで薬のように持続することが研究により明らかになっています。
オピオイド系の鎮痛薬の一種ブプレノルフィンによる治療効果の研究では、偽薬治療を繰り返し行われた被験者たちが症状の改善を訴え、プラセボ効果が4~7日間続いたことが報告されています。研究者らはプラセボ効果が学習の一種であると考察しています。プラセボ効果が研究の間でばらつきが生じている原因は学習効果の差によるものかもしれないと述べています。
Colloca, Luana, and Fabrizio Benedetti. “How prior experience shapes placebo analgesia.” Pain 124.1-2 (2006): 126-133.
記憶の改ざん
鎮痛薬のプラセボ効果はよく考察されていますが、痛みは感覚的な尺度であるため、患者が感じた痛みの記憶が治療前後で変化することがあります。
参考 ガイドライン|日本緩和医療学会 - Japanese Society for Palliative Medicine取得できませんでした
具体的には治療後に治療前の痛みを申告させると実際よりも治療前は痛みが強かったと申告する例があります。
De Pascalis, Vilfredo, Carmela Chiaradia, and Eleonora Carotenuto. “The contribution of suggestibility and expectation to placebo analgesia phenomenon in an experimental setting.” Pain 96.3 (2002): 393-402.
こめやん