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帰納法の弱点-全てを検証するのは無理?検証と反証の非対称性

帰納法は万能ではない?帰納法の弱点とは?

帰納法とは?

帰納法は高校で「数学的帰納法」が登場しているので言葉は聞いたことがある人も多いと思いますが、帰納法とは何か?と聞かれると答えられる人は少ないと思います。

最近は学術の分野だけでなくビジネスの分野でも論理性が必要なスキルとして重視されているようで「ロジカルシンキング」という形で帰納法を学んでいる社会人の方も多いようです。

帰納法は複数の個別のデータから一般的な法則・規則を見出す論理的推論法のことです。

科学においても観察や経験を通して発見された法則はたくさんあるので重要です。

帰納法によって導き出された結論はたくさんの個別のデータをもとにしているため「私はそう思う」とか「そうであるに違いない」というような主観的な結論よりも客観性が高く説得力がありそうです。

とは言っても帰納法を日常生活で利用するのは難しいと思います。すでに頭の中に結論があるので収集した情報の中から結論の中から自分の結論にとって都合の良いデータを「無意識に」選別してしまったり、そもそも推論に使うデータが少ない、あるいは出典不明な二次情報を利用したりなどデータの質が低いという問題があります。

帰納法の問題点は多くの哲学者によって議論されています。

ここでは帰納法の問題点について紹介していきます。

演繹法と帰納法の違い演繹と帰納の違いをわかりやすく説明 -ロジカルシンキング

検証と反証の非対称性

帰納法の問題についてみていきましょう

例えば、目の前に砂糖または塩が溶けたコップの水が大量にならんでいるとします。

「全て砂糖水である」を検証してみます。

一つ目のコップの水を味見したら砂糖水でした。二つ目を味見したら砂糖水でした。さて、「全て砂糖水である」を肯定するためにはいつまで続ければよいでしょうか?

もしも味見して塩水が出た場合は説が否定されるので終了します。逆に言えば塩水が出ない限りは全てが砂糖水であることを肯定するためには全てを味見する必要があるのです。

つまり、本当に全て砂糖水だったとしても、全てを検証しないと上の説を肯定できません。一方で、「全ての水が砂糖水である」を否定する(反証)には一回でも塩水を見つけ出せば否定できます

上記のようにすべての要素がある条件を満たすという形式の命題(=全ての水 が 砂糖水である)を全称命題と言います。

全称命題が真であることを示すには全要素の検証が必要ですが、全称命題を否定する、偽を示すに反例を1例見つければよいです。たった一つの塩水を見つければ「すべての水が砂糖水である」を否定できます。

全称命題を肯定するためには検証(実証)がたくさん必要なのに対して否定するにはわずかな反証でよいという非対称性を指して科学哲学では「検証と反証の非対称性」と呼んでいます。

イギリスの哲学者であるカール・ポパーは帰納法の問題点を指摘し、これまでの論理実証主義を批判し、反証主義を展開していきました。

帰納法の弱点から反証主義へ

上で述べたことが帰納法の弱点の一つですが、ポイントを述べると

  • 人間は膨大なサンプルを網羅的に検証できない
  • サンプルに偏りが生じる

が挙げられます。無限に近い自然のサンプルを網羅的に検証するのは不可能でしょう。さらに選んだサンプルの場所が偏っていたり、バイアスがかかっていればさらに偏りが大きくなります。

例えば「すべてのカラスは黒い」という命題を肯定するためには地球上のすべてのカラスを観察して黒いことを確かめなければなりません。

こめやん

私は生まれてから黒いカラスしか見たことしかないし、身の回りにいる人に黒いカラス以外見たことある?と聞いても同じ答えが返ってきそうですね

多くの人がそういうならこの説は肯定できるでしょうか?

残念ながら「すべてのカラスは黒い」というのは全称命題であり、肯定できません。たとえ1億匹のカラスを観察しても1億一匹目がいるなら肯定できません。現実世界には実際にアルビノの白いカラスがいたりします。また、たとえ今現在いなくても過去にあるいは未来に出てくるかもしれません。

ポパーは帰納法の弱点から、帰納法により導き出される説は「常に誤る可能性がある」という立場をとり、いくつもの反証によって否定されないことで説の信頼性は向上するとみなしました。

「全てのカラスは黒い」の反証はたくさんあります。例えば黒以外の赤や黄色のカラスがいればこの説は否定できます。逆に言えば、たくさんの反証が想定できるにもかかわらず反証が見つかっていない場合この説の確からしさ、信頼性は高いといえそうです。

帰納法により導き出された結論の正しさは一時的なものであり、反証可能性がある限りいつでも否定される可能性があるということ示唆しています。いくつもの反証に対して否定されなかった説はそれだけ信頼性があがります。逆に反証できない命題には信頼性は無いといえます。

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