水素化トリ-tert-ブトキシアルミニウムリチウムは関東化学で25g11000円で販売されているヒドリド還元剤です。
水素化トリ-tert-ブトキシアルミニウムリチウムを使った酸塩化物の還元はアルデヒドで停止します。
別名Brown-Subba Rao法とも呼ばれます。酸塩化物の還元反応には最もよく利用される方法の一つです。
水素化トリ-tert-ブトキシアルミニウムリチウムによる酸塩化物の還元の特徴
LiAlH4などのヒドリド還元剤による酸塩化物の還元は通常アルコールまで進行します。
当量調節や温度調節によってアルデヒドの部分還元を達成できる例がありますが、実際にやってみると結構アルコールまで還元が進行してしまい調節が難しいので結局アルコールまで還元して酸化によりアルデヒドを合成することが多いです。
そんな金属水素化物の還元力をアルコキシ基の導入により落としてアルデヒドの部分還元をしやすくしたのが水素化トリ-tert-ブトキシアルミニウムリチウム(LiAlH(O-tBu)3)です。LTBAと略される?ようです。
実際のヒドリド還元剤の還元力を並べると以下のようになります。
LiAlH4> LiAlH(OMe)3 > LiAlH(O-t-Bu)3 > NaBH4
Brown, H. C.; Shoaf, C. J. JACS 1964, 86, 1079.
LTBAはLiAlH4に似ていますが、どちらかと言えば反応性はNaBH4に似ています。
溶媒はTHFやグライムなどを利用できます。
酸塩化物の還元反応はTHFを溶媒として、-78℃と極低温で反応させることによりアルデヒドを得られます。
この方法は温和であり、ニトロやニトリル、アルケンなどは還元されません。また、エステルやラクトン、エポキシドはゆっくりと還元されます。ハロゲンやアジドなどが共存してもOKのようです。
アルデヒドは温度を0℃付近にすると還元されてアルコールになります。したがってー78℃を保って還元を行い、当量も過剰に加えないようにします。
LTBAの反応をまとめると
- -78℃:酸塩化物をアルデヒドに還元
- 0℃以上:ケトン・アルデヒドをアルコールに還元
- ケトエステル→ケトン選択的にアルコールに還元
- αβ不飽和カルボニル→1,2-還元が優先
反応例1

Wu, Zhixing et al Journal of Medicinal Chemistry, 47(12), 3282-3294; 2004
10.78 g(45.0 mmol)の基質と90 mLの脱水THFを含む溶液を-78°Cのに冷却し、220 mLのTHFに溶解した11.76 g(45 mmol)のリチウムトリ-tert-ブトキシアルミノヒドリドの溶液を滴下して加え、30分間撹拌した後、反応混合物を室温まで温め、砕いた氷(250 g)に注いだ。固体を濾別し、ジエチルエーテル400mLで洗浄した。有機層を分離し、5%NaOHおよびブラインで洗浄し、得られたクルードをカラム精製により目的物を74%で得た。
不飽和アルデヒドの合成にも使えます。反応はー78℃で進行させなければならないのが欠点です。
LTBAはあまり安定な化合物ではないため、失活する場合もあります。
1molのLiAlH4に3molのtert-BuOHを加えれば調製できます。