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薄荷 ハッカの成分と効能とは?

ハーブの代表格で、医療用途にもよく使われている薄荷について紹介します。

薄荷・ハッカとは?

薄荷(ハッカ)は日本に自生しているハーブの一つ「ニホンハッカ」という植物を指します。

ニホンハッカ from wikipedia by Michael Becker [CC BY-SA (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/)]

薄荷は多くのハーブ類(バジル、オレガノ、ラベンダー)が属するシソ科の植物でハッカ属です。同じハッカ属には「ペパーミント」や「スペアミント」などがあります。

薄荷はスースーとした冷涼感があり、食品や香料、薬草として古来から使われています。


ハッカの成分とは?

ハッカを食べたりにおいをかぐと感じるスーっとした清涼感はどんな成分が原因で感じるのでしょうか?

原因物質はすでに解明されています。

その成分は「L-メントール」です。

L-メントールとは?

ハッカ中に含まれる揮発性の成分を集めたものを「精油」といいます。カタカナでは「エッセンシャルオイル」と呼ばれるものです。ざっくり言えば、水分以外の液体成分とでもいったら分かりやすいでしょう(植物の成分のほとんどは水)。

精油にはその植物特有の成分が含まれています。薄荷草から抽出してきた精油を分析してみるとなんと65%以上も「L-メントール」が含まれているようです。ちなみにニホンハッカではないペパーミントなどは40%とずっと低いようです1)

1) 和泉光則. “北海道北見地方のハッカ (薄荷).” 化学と教育 64.4 (2016): 188-191.

メントールの化学構造

L-メントールについて化学的に詳しく見ていきます。
メントールのLとかDとかは立体異性体を表しています。立体異性体とは下の化合物のように3Dの化合物を重ねようとしても重ならない物質のことです。右手と左手も立体異性体の一つですね。

メントールの構造

メントールの構造

メントールはテルペノイドの一種です。

植物が作り出す精油成分にはテルペノイドがたくさんあります。

テルペノイドは「イソプレン」という構造単位が含まれています。

イソプレン単位

赤い部分は頭部、青は尾部

特徴的なのは赤い部分です。こういった構造が含まれているものがテルペノイドと呼ばれます。

メントールは環構造を含む単環式モノテルペノイドです。メントールはメンタンと呼ばれる基本構造を持っています。

メンタンの構造

メンタンの構造

メントールと同じくメンタン構造を持つ化合物にはリモネンなどがあります。

こめやん

イソプレンやメンタン構造を見かけたら植物由来の精油成分かな?と予想できますね

メントールの生合成はゲラニル二リン酸から作られると考えられています。途中でリモネンが出てきますね。

メントールの生合成

メントールの生合成

メントールには3つの不斉炭素を持っています(点線や太線の中心炭素)。

メントール成分の効能

メントールが冷感覚を示すのはなぜでしょうか?

それは皮膚表面にある温度を感じるたんぱく質が刺激されているからです。面白いことに、熱や冷を感じるたんぱく質は化学物質によっても刺激されます。

温度を感知するたんぱく質は温度感受性TRPチャネルと呼ばれるものです。メントールはそのうちTRPM8を刺激して冷感を覚えます。TRPM8は約26℃以下くらいの温度でも刺激されます。

TRPM8は寒さを感知する主要な検出器であるといわれています。TRPM8欠損マウスは冷たい床に対する反応性が低下することが2007年BautistaらによってNatureに報告されています。

Bautista, Diana M., et al. “The menthol receptor TRPM8 is the principal detector of environmental cold.” Nature 448.7150 (2007): 204-208.

ちなみに唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは熱によっても活性化されるTRPV1を刺激して痛覚を示します。

富永真琴. “温度受容の分子機構.” 医学のあゆみ 239.9 (2011): 915-916.
メントールは痛みの軽減などに効果があるとして使われていますが、鎮痛機構としてはまだ不明な点があるようです。マウスの実験でTRPM8が鎮痛や冷感に関わることが報告されています。
Liu, Boyi, et al. “TRPM8 is the principal mediator of menthol-induced analgesia of acute and inflammatory pain.” PAIN® 154.10 (2013): 2169-2177.
また、メントールは痛みに関わるTRPV1を抑制する効果が発見されており、これが鎮痛に関わることが報告されています。マンダム株式会社と岡崎統合バイオサイエンスセンターとの共同研究の研究成果として報告されています。
Takaishi, Masayuki, et al. “Reciprocal effects of capsaicin and menthol on thermosensation through regulated activities of TRPV1 and TRPM8.” The Journal of Physiological Sciences 66.2 (2016): 143-155.
メントールには様々な効果があることが報告されています。
  1. 抗細菌作用
  2. 抗真菌作用
  3. かゆみの抑制
  4. 抗がん作用
  5. 鎮咳作用
  6. 抗炎症作用
  7. 虫よけ

などが報告されています。多くの作用の具体的な機構については不明な点が多いです。抗菌作用については微生物の脂質細胞膜を破壊する機構が提唱されています。抗がん作用についてはがん細胞の細胞周期を停止させる効果が報告されており、非アンドロゲン依存性前立腺がんに対する有効性を検討しています。メントールの効果については以下の論文にまとまっているので参照してください。

Kamatou, Guy PP, et al. “Menthol: a simple monoterpene with remarkable biological properties.” Phytochemistry 96 (2013): 15-25.

メントールの抽出法

かつては日本はメントール生産の世界トップでした。それも日本の日本薄荷がペパーミントと比べてメントール含有量が多かったことが理由かもしれません。現在は不斉合成技術が上がったため、化学合成品が使われているようです。

ハッカ草からメントールを抽出工程は

  1. 開花直前に刈り取る
  2. 天日干し
  3. 水蒸気蒸留
  4. 粗精製油を冷却すると結晶性の高いメントールが結晶化する
  5. 再結晶で精製

という流れです。水蒸気蒸留は実験的には沸騰させた水から出てくる水蒸気を乾燥葉に流し込み、冷却管で冷やして水と一緒に精油を集めるという方法で実施できます。水は分液などで取り除けば粗精製油が得られます。

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