髪の毛の表面の状態がどうなっているか知っていますか?キューティクルという表面のぼこぼこした状態であることは多くの人が知っていると思います。
では、髪の毛表面の化学的な構造がどうなっているか?
ということを知らないひとが多いと思います。髪の毛の表面の化学について紹介します。
18-MEA – 髪表面を疎水性にする脂肪酸
じつは 髪の毛表面には18-メチルエイコサン酸(18-MEA)という脂肪酸が髪の毛の表面とチオエステルを介して結合して表面を覆っています。
18-MEAは,哺乳類にのみ存在し,哺乳類の体毛を疎水性にすることで水をはじく状態にし,雨や雪から身体を守ることに役立っていると考えられている。ヒトでは毛髪のキューティクルにのみ存在する脂肪酸であり,キューティクル最表面にチオエステル結合を介して存在している。
井上滋登. “毛髪最表面の構造と物性.” 表面科学 32.5 (2011): 287-293.
このように髪の毛の表面は脂肪酸が覆っているために脂状態です
だから髪の毛は水を弾くんですね。
まるでワックスを塗ったスキー板のようになっているので、水を弾くだけでなく、髪の摩擦も低減しています。
ダメージを受けた髪の毛の表面構造
ダメージを受けた髪は表面構造が崩れて、親水性になっていきます。親水性になると水を弾くことができなくなります。
キューティクルは、髪が水を含むと広がりやすくなり、ゴワゴワさせます。すると髪の毛の摩擦が増える(髪が摩擦で抜けやすくなるかも?)
なぜこのようになっていくのでしょうか?
髪の毛のダメージは18-MEAの消失によるもの
1.パーマ
2.ブリーチ
です。髪の毛をブリーチした経験がある方はわかると思いますが、髪の毛の表面の滑らかさが失われてパサパサした髪になってしまいますよね。ツヤもなくなります。
パーマ施術では,1回の施術で18-MEAは,およそ半分に減少してしまう。また,驚くべきことに,ブリーチ施術では,1回の施術で殆どの18-MEAが消失してしまうのである。
井上滋登. “毛髪最表面の構造と物性.” 表面科学 32.5 (2011): 287-293.
実際に髪表面のマススペクトルを測定する手法で調査した結果、ブリーチではほとんど無くなるという結果がでています。ブリーチ後の髪の変化はちゃんと化学変化を反映した正しい結果?なのですね。
化学的には、パーマは髪の毛に1割ほど存在するシスチン(2分子のシステインのチオール基を介してジスルフィド結合を形成した分子)のジスルフィド結合を塩基性条件下チオグリコール酸などの還元剤で切り離すことで行われます。
ブリーチは言葉の通り、塩基性条件下で過酸化水素などで漂白します。
このような18-MEAの減少はUV(日光)によっても起こるみたいです。髪は日光で傷むということも覚えて置く必要がありますね。
髪表面の18-MEAは一度失われると二度と再生されることはない。
コンディショナーが油っぽい理由
ヘアコンディショナー(ヘアトリートメント)は使用していますか? 最近は洗い流さないものもありますよね。
シャンプーで洗い流したあと、油っぽいヘアコンディショナーをつけるのってなんか変だなと思ったことはありませんか?
実はこのヘアコンディショナーに含まれる油分は、この18-MEAを補うためのものだったのです。
コンディショナーの成分は第4級アミンを親水基としてもつ長鎖アルキル界面活性剤が含まれています。(陽イオン界面活性剤)これが、髪の毛の表面にとどまることによって、髪の毛の表面を疎水性に保っているということです。
[box02 title=”まとめ”]髪の毛表面を覆っている脂肪酸18-MEAが失われると髪表面のツヤや滑らかさが失われ、摩擦が増えると、髪の毛のキューティクルがダメージを受けて枝毛や切れ毛の原因にもなる。髪の毛が親水性になると、水を含みやすくなり、キューティクルを広げて髪がパサパサ、ギシギシする。パーマやブリーチをしている人は、髪の毛を疎水性に保つことを意識しましょう[/box02]
ちなみに髪表面の化学的な研究に熱心な花王さんから2018/9/29から新製品のコンディショナーが発売されています。今回引用した論文も花王株式会社が行ったものです。
ヘアダメージに気になる方がいたら使ってみてください。