クロマトグラフィーでは化合物の保持時間の差によって各々の化合物の分離が可能になります。
ガスクロマトグラフィーにおいてどのような要素・条件が保持時間に影響を与えるのか?選択性や混合物が出てくる順番などを紹介します。
目次
保持時間と溶出
保持時間は導入した試料がカラム入り口からカラム出口(検出器)までにかかる時間です。保持時間はリテンションタイムと呼ばれています。
混合物をカラムに導入してカラムを通って出てきた時に分離して別々に出てくるのは、化合物ごとに保持時間が異なるからです。
保持時間に影響を与える要因は
- 固定相の極性・溶解度
- カラム温度
- 化合物の沸点 (蒸気圧)
- キャリアガスの流量
- カラムの長さ
- 固定相の厚み
です。
固定相への親和性・溶解度
固定相への親和性が高いほど保持時間が長くなります。固定相液体を用いている場合は試料の溶解度という言葉でも言い換えられます。化合物の溶解度は「似た者同士」が溶け合います。
すなわち、疎水性の固定相であれば、低極性化合物は親和性が高い・溶解度が高いです。つまり、低極性化合物は疎水性の固定相を用いると保持時間が長くなります。それとは逆に高極性の固定相を用いた場合は水と油のように反発しあい、溶解度は悪くなるため、高極性の保持時間は短くなります。
カラムの温度と保持時間の関係
カラムの温度は保持時間に大きく影響を与えます。一般的にカラムの温度をあげると気相と固定相との間の分配係数の比が小さくなるため、保持時間が短くなって速く溶出します。
一般的に、再現性のあるクロマトグラフを得るためにはカラムの温度を一定に揃えますが、ガスクロマトグラフィーでは分離のために温度を変化させてクロマトグラフィーを実施することがあります。
こめやん
adeno
こめやん
カラム温度をあげると分離能が悪くなるにも関わらず、ガスクロマトグラフィーではカラムを数百度まで温めます。その理由は、ガスクロでは液体試料の場合気化させて展開させる必要があるためです。カラム温度が低いと試料が液体状態になる時間が多くなり、展開するまで多くの時間がかかってしまいます。だからカラムを試料沸点付近まで加熱しています。
また、ガスクロマトグラフィーではカラム温度は一定ではなく昇温させて分離を行うこともあります。
先程述べたように試料沸点よりもカラム温度が低いと、高沸点の試料は液体状態にある割合が大きくなり、展開に多くの時間を要するようになります。沸点差がある化合物の分離には低い温度から徐々に高い温度に昇温させて分離します。
こめやん
ガスクロのカラム温度は30℃上昇させると保持時間が半分になると言われています。
カラムの温度は使用するカラムの適正使用温度を守りましょう。ちなみにカラムの温度は必ずしも化合物の沸点よりも高い温度に設定する必要はありません。なぜなら、例え固体であっても蒸気圧は0ではなく微量にも気相に移動しているからです。
保持時間 (tR)の式
tR = L (1+k) / u
カラム長:L、流速:u、分配比:k (温度上昇で小さくなる)
・カラム温度の上昇によって分子エネルギーが大きくなって固定相との相互作用が小さくなり、試料が気相にとどまる割合が大きくなります。
沸点と保持時間の関係
化合物の沸点は先程少しふれましたが、保持時間に大きな影響を与えます。
特に常温域で液体になる高沸点の化合物で問題になります。
気相と固定相では、気相のほうが移動速度が大きいことが基本です。
沸点の高い化合物はガスクロカラムが沸点よりも結構低い状態だとカラム中で液体である割合が大きくなります。つまり高沸点化合物は低温度では固相や液相に存在する割合が大きくなり、保持時間が長くなります。
沸点が高いほどその割合が大きくなるため、一般的に沸点が高くなるほど保持時間は長くなります。
沸点差が30℃以上離れていればたいていの場合は沸点順に溶出できます。
キャリアガスの流量と保持時間
キャリアガス、すなわち移動相の流量・流速は保持時間に影響します。流量を増加すれば、保持時間は短くなる一方で分離能は悪くなります。基本的には流量は適正な値で運用するようにします。
カラム長と保持時間
カラム長は長いほど保持時間は比例関係で増加します。一般的にはカラム長が長いほど保持時間と分離能は増加します。
デメリットは他のクロマトグラフィーと同様にあまりにも長いとカラム内で試料の拡散が起こってピークのブロードが起こることがあります。試料が微量の場合はピーク広がりによって検出できなくなることもあるので、細いカラム径を利用するなど対策が必要です。
固定相の厚みと保持時間
固定相の厚みは固定相の量を意味します。固定相の厚みが厚いほど保持時間は増加します。
膜厚が増加すると、試料の負荷量が増えます。沸点が高いものでは膜厚は薄い方が良いです(ブロードと長時間分析のため)。沸点が低い化合物の場合は膜厚を厚くすることで分離の改善が見られることがあります。
こめやん
保持時間の例
保持時間は化合物の沸点や極性、カラムの固定相によって変化します。その一例を以下の表にのせています。
物質名 | 沸点 (℃) | tR (min) (Apiezon L) | tR (min) (DEGS) |
ヘキサン | 68.7 | 2.7 | 0.15 |
酢酸ビニル | 72.5 | 1.6 | 2.0 |
酢酸エチル | 76.8 | 1.9 | 2.0 |
エタノール | 78.3 | 0.6 | 2.0 |
ベンゼン | 80.1 | 4.7 | 2.3 |
シクロヘキサン | 80.7 | 5.0 | 0.5 |
n-ウンデカン | 196 | 79 | 1.5 |
エチレングリコール | 198 | 3.8 | 82 |
泉美治 et al, 第2版 機器分析のてびき2, 化学同人p.23表2-5より引用
Apiezon Lは極性の低い固定相で、DEGSは極性の高い固定相です。
極性の低いヘキサンは、極性の高いエステルやエタノールと比べて沸点が低いにも関わらず保持時間が長いです。これは極性の低い固定相への親和性が高いためであると考えられます。
予想通り、極性の高い固定相であるDEGSではヘキサンの保持時間はエステルやエタノールと比べて短くなっています。
エチレングリコールやウンデカンとで比較するとその差は明らかです。