ガスクロマトグラフィーのカラムはHPLC以上にたくさんの種類があると思います。カラムの種類だけでなく、充填剤にも固相や液相があったり、極性の違いなどがあります。この記事ではそれぞれのカラム、充填剤の違いや特徴などを紹介していきます。
ガスクロマトグラフィーのカラムの種類
用途別の分類
ガスクロマトグラフィーの用途としては、
- 微量の混合ガス成分を分離して構造や量を分析
- ガス混合物をそれぞれ分離して精製
の2つがあります。
こめやん
この用途に合わせて分析用と分取用カラムの2つがあります。
- 分析用カラム
- 分取用カラム
ガスを分離して精製したい場合は分取用のカラムを使用しましょう。分取に向いているのは「充填剤カラム(パックドカラム)」と呼ばれるカラムです。
分析に用いたい場合は「キャピラリーカラム」を使います。キャピラリーカラムは名前のように細長い管でできたカラムなので長いカラムを作れます。したがって、ガスの処理量は小さいですが、分離能は高いです。
カラム種類別の分類
ガスクロマトグラフィーのカラムは「充填カラム:パックドカラム」だけでしたが、現在は「キャピラリーカラム」が主流になっています。
- パックドカラム:種類豊富で処理量が多いが、分離能は悪い
- キャピラリーカラム:種類は少なめで処理量も少ないが、分離能は高い
パックドカラムは分取用、キャピラリーカラムは分析用に用いられることが多いです。
充填カラム パックドカラムとは?
パックドカラムは金属(アルミ、ステンレスなど)やガラスの管内に吸着剤や担体を充填させたカラムです。
昔から使われているカラムで、充填剤の種類が豊富で様々な種類の充填剤を化合物にあわせて選択できるのがメリットです。管の内径が大きく、たくさんの充填剤を加えることができることから、大量のガスの処理にも向いています(20マイクログラム程度まで可能)
一方で、内径が太いこと、粒子の間をガスが通過するため多流路拡散が起こってピークがブロードになる欠点があります。
キャピラリーカラム
キャピラリーカラムは金属やガラスからなる細い管のカラムです。柔軟性が高くガスとの反応性も低い溶融シリカガラスを使ったキャピラリーカラムが主流です。
キャピラリーカラムは中心に穴が空いた中空型のカラムになっています。
キャピラリーカラムはパックドカラムと比べて抵抗が少ないためカラムを長くすることができるので、理論段数が高く、分離能が高いので検出ピークはブロードしにくく、シャープに出てきます。また、カラムへの吸着や分解も少ないので微量成分の分析にも向いています。
カラム内径が小さいため、大量のサンプルの処理は不向きです(~3マイクログラム)
キャピラリーカラムは内壁に液相がコーティングされているタイプがよく利用されています。
キャピラリーカラムは固定相の種類によって以下のようにいくつかに分類されます。
WCOTカラム
WCOT (Wall Coated Open Tubular)カラムは中空のカラムで内壁に液相を固定させたカラムで、主流のタイプのカラムです。
SCOTカラム
SCOT (Support Coated Open Tubular)カラムは内壁に固相担体(セライトやシリカ)を固定させたカラムです。厚めの固定相をつけることができるのが特徴だったが、化学結合型のWCOTが開発されてからあまり利用されていない。
PLOTカラム
PLOT ( Porus Layer Open Tubular)カラムは、カラムの内壁に吸着剤を担持させたカラムで、分配ではなく吸着クロマトグラフィーによる分離を行うカラムです。無機ガスや定休炭化水素の分離に向いています。
充填剤・固定相の種類や特徴
吸着剤の種類と特徴
吸着剤は混合ガス中に含まれるガス成分を吸着する剤です。
吸着剤にはモレキュラーシーブや活性炭などを使用します。
吸着剤 | 主な分離成分 | 用途 |
モレキュラーシーブ (5A) | H2, O2, (Ar), N2, Kr, CH4, CO, Xe [Ne, HD, NO, D2, DT, CD4, Rn, T2] | 無機ガス、永久ガス |
活性炭 | H2, O2, N2, CO, CH4, CO2, アセチレン, エチレン, エタン | 無機ガス |
シリカゲル | O2, N2, CH4, エタン, CO2, エチレン, アセチレン | 炭化水素類 |
活性アルミナ | N2, CO, CH4, エタン, エチレン, プロパン, アセチレン, プロピレン | |
ポラパックQ, クロモソルブ101 | 水、低級脂肪酸、無機ガス、低分子有機化合物 | |
TENAX-GC (ポーラスポリマービーズ) | アルコール、グリコール、アミン、酸アミド、フェノール、アルデヒド、ケトン | 高沸点極性化合物、炭化水素は不向き |
吸着剤は分離したい化合物の種類にあったものを選択するようにします。
無機系の吸着剤であるモレキュラーシーブ、活性炭は無機ガスの分析に利用されます。希ガスの分離にはモレキュラーシーブが使用されることが多いです。
吸着剤は使用前に加熱して乾燥したキャリアーガス気流中で脱水させる操作をする必要があります。
吸着剤 | 活性化温度(℃) | 処理時間(h) | 備考 |
モレキュラーシーブ | 300-400 | 1-4 | 650℃以上は変質 |
活性アルミナ | 110-350 | 2-24 | 400℃以上で吸着能低下 |
活性炭 | 300-400 | 3-10 | 通常900℃まで安定 |
シリカゲル | 110-350 | 1-20 | 700℃以上で表面積激減 |
モレキュラーシーブ (5A)
モレキュラーシーブは表面に無数の孔が空いたゼオライトで、有機化学では溶媒の脱水用途によく利用されます。ガスクロマトグラフィーでは、無機ガスの分離によく利用されます。
モレキュラーシーブカラムでは室温で酸素、窒素を分離可能で、一酸化炭素やメタンなども分離できます。二酸化炭素はモレキュラーシーブに吸着されるので分離ができません。
活性炭
活性炭では炭化水素系の分離は可能ですが、酸素や窒素など空気成分の分離は得意ではありません。
シリカゲル
シリカゲルは空気成分の分離はできませんが、炭化水素類や一酸化炭素、二酸化炭素などの分離が可能です。
アルミナ
アルミナは低級炭化水素(~C10)、低分子芳香族化合物の分離に有効です。
担体の種類と特徴
担体は充填カラム中に加える充填剤(粒子)の土台材料のことです。
担体の表面上に吸着剤を結合させたり、固定相液体の皮膜をコーティングさせることによって様々な分離性能を持つ充填剤を作ることができます。
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担体は基本的にはそれ自身が試料と相互作用しないような材質である必要があります。
- 化学的・物理的に不活性(試料や固定相と反応しない)
- 耐熱性がある
- 表面積が大きい (多孔質材料)
- 粒径が均一で機械的強度に優れていること
などが担体として求められる要件です。
担体として利用されているものには
- 珪藻土 (レンガ系[赤]、白色系)
- ポーラスポリマー
- ガラスビーズ
- 水晶
- テレフタル酸
- フッ素樹脂
- 吸着剤(アルミナ、活性炭等)
があります。
担体はそのままでは表面にさまざまな官能基や不純物を含むことがあるので、不活性化処理を行うことがあります。
- 強酸・強アルカリ処理
- シランキャッピング (TMS化等)
が代表的な処理です。
担体の主流はSiO2からなるケイソウ土系の担体です。
白色系ケイソウ土は不活性で高感度な分析に向いています。
赤色系ケイソウ土は比表面積が大きくより多くの固定相液体を保持することができます。
液相 (固定相液体)の種類と特徴
担体表面上に液体をコーティングすることによって、様々な表面活性を持つ充填剤を作り出すことができます。固定相液体は充填剤を入れるパックドカラムだけでなく、キャピラリーカラムでも利用されています。
固定相液体を利用したガスクロマトグラフィーでは、気体試料が液相と気相間で分配されるため、気ー液-クロマトグラフィー:GLCです。
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液相で基本となるのがスクアラン(無極性液相)です。ポリエチレングリコールは代表的な極性液相です。
液相に求められる要件は
- 融点が低く、高温でも揮発しにくい
- 熱安定性が高い
- 化学的に安定でガス試料や担体と反応しない
などです。
液相で分離させた時の様子としては、
液相と化学構造(極性)が類似するものほど保持時間が長くなります。これは液相と似た化合物同士のほうが良く溶け合う(親和性が高い)ことが原因で、気相に化合物が行きにくくなることが原因です。
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性質が似た化合物同士の場合は、沸点が低い順番で溶出されます。
代表的な固定相(極性の低い順)
固定相 | 使用温度(℃) | 固定相分子タイプ | 対象化合物例 |
スクアレン | 150 | 直鎖炭化水素 | |
Apiezon | 50-250 | 直鎖炭化水素 | |
SE-30 | 50-300 | ジメチルシロキサン | 高沸点炭化水素、高級脂肪酸エステル、ステロイド |
OV-I | 50-300 | ジメチルシロキサン | |
Dexsil 300GC | 50-450 | カルボランジメチルシリコン | |
DC550 | -200 | フェニルメチルポリシロキサン | 中沸点炭化水素、ハロゲン化物 |
DIDP | -150 | ジイソデシルフタレート | |
DOP | -150 | フタル酸エステル | |
OV-210 | -275 | トリフルオロプロピルメチルシリコン | |
OV-17 | -320 | メチルフェニルシリコン | 高沸点化合物、ステロイド、アルデヒド |
TCP | 20-125 | リンサントリクレジルエステル | |
XE-60 | -250 | βシアノエチルメチルポリシロキサン | |
OV-225 | -250 | シアノプロピルフェニルシリコン | |
PEG-20M | 60-220 | PEG | アルコール、エステル、ケトン、アルデヒド |
FFAP | -120 | PEGニトロテレフタレート | 脂肪酸 |
PEG-400 | -120 | PEG | |
DEGA | 0-200 | ジエチレングリコールアジピン酸エステル | |
DEGS | -200 | ジエチレングリコールコハク酸ポリエステル | アルコール、脂肪酸エステル |
固定相の選択
カラムのタイプの選択を行った後は、固定相を選択します。固定相は種類が豊富なので選択が難しいです。
固定相の選択で最も重要で基本的なことは、分離したい試料成分の情報を知る・予測することです。
試料成分は予めわかっている場合もあれば、不明な場合もあります。全く不明というような状態だとカラムや固定相、条件の決定も難しいので先行研究を参考にしたり、化合物のあたりをつけることが重要です。部分的にでも知っておくと役立つ情報は
- 分子量
- 沸点
- 官能基や原子 (ヘテロ原子があるか?など)
- 溶解度
- 存在量
- 分子の形 (芳香環を含むか?直鎖か?)
などです。上記の情報は固相の選択だけでなく、検出器の選択にも役立ちます。固定相の選択では極性情報が重要です。液相に目的化合物が溶解するか?というような視点で固相を選択することもあります。
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固定相を選択するときは、なるべく低極性で、試料の極性に近い極性の固定相を選びます。混合物の場合は極性の低いものと高い固定相で得られたクロマトグラムから適した固定相の選択を行います。
固定相の選択例
不明な混合物の分離あるいは、炭化水素類の分離には「低極性固相」を試します。低極性固相にはスクアレンやApiezon、SE-30、OV-Iなどがあります。
アルコールやアミンなどの極性の高いものと分離するときは極性の高いPEGやエステル系の固定相を利用します。極性の高い固定相には極性の高い化合物が保持されます。
ただし、必ずしも極性が低いからと行って極性の低い固定相を利用しなけれならないわけでは有りません。極性の高い固定相を使用することで分離可能になる例も多いです。
未知の場合は極性の低い固定相(スクアレンやApiezon、SE-30)と極性の高い固定相(PEG-20M)などを試して検討していくと良いです。
McReynolds係数とは?
液相の固定相を選択する時の目安となるのがMcReynolds係数(定数)です。
McReynolds係数はスクアランを固定相液体とした時の各テスト化合物(ベンゼン~)の保持指標を0基準として、他の固定相液体ではテスト化合物の保持指標がどのように変化するかを調べたものです。
キャピラリーカラムの選択
キャピラリーカラムの長さは
- 1~3個の混合物→15m
- 数個の混合物、保持時間が不明な時→30m
- 分離の困難な混合物の時→60m
というような基準で選択します。当然長いカラムを使用するほど分離能は上がりますが、測定時間は長くなります。
内径も細さは分離能やチャージ可能な試料負荷量が変化します。試料負荷量が多い場合は内径は0.5mmくらい、そうでない場合は0.25mmを選択します。
キャピラリーカラムは内壁に固定相液体がコーティングされたWCOTを中心に選択します。
基本条件
内径:0.25 mm、長:30 m、固定相膜厚: 0.25 μmが標準的な条件です。