エステルの合成方法として有名なフィッシャーエステル化は、アルコールを過剰量必要とし、酸・加熱条件下で還流する必要があるので、原料合成など簡単で大量スケールには向いていますが、少量スケールで複雑な原料のエステル化には向いていません。
ここでは、縮合剤を使った反応として、代表的なDCCを中心に縮合剤を使ったエステル化反応について紹介します。
縮合剤で活性エステルを形成する
カルボン酸を求電子剤、アルコールを求核剤とする戦略でエステル化を行うには、カルボン酸の求電子性を上げて、酸素を脱離させます。
脱離能を上げる方法として最も強力で一般的なのは「酸塩化物」です。
酸塩化物から脱離する塩化物イオン(Cl-)は脱離能が高く一原子のため立体障害も少なく、アルコールが近寄りやすいです。
酸塩化物にしてからエステル化を行う方法はとても強力な方法ですが、反応に二段階を有したり、塩化水素を発生する反応性の高い試薬を用いる必要があるなどの問題点があります。
DCC等の縮合剤はカルボン酸とアルコールを混ぜて一段階で合成できます。
カルボジイミドDCC、EDCを使ったエステル化
カルボジイミドはカルボン酸とアルコールから脱水してエステルをつくる縮合剤です。
DCCはカルボン酸と反応して活性エステルを作ります。
触媒としてDMAPを加えると反応が加速します。また、N-アシル尿素が生成するのを抑えます。求核性の高いDMAPがカルボン酸と反応してアシルピリジニウムが生成していると考えられます。
ちなみにこのDCC/DMAPの方法はシュテークリヒエステル化(Steglich esterification)という人名反応なんです。
DCCの欠点としては副生成物の尿素が邪魔になることです。EDCに変えると副生成物は水で洗浄除去可能になります。
DCCを使ったエステル化
脱水ジクロロメタン(15mL)中にカルボン酸(1.0051 g、4.61 mmol)を溶かした溶液をイソプロパノール(1.0 mL)DMAP(0.529 g、4.33 mmol)、およびジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(1.154 g、5.59mmol)の溶液に加えて混合物を窒素雰囲気下で24時間撹拌、溶液を濃縮してカラムをして収率93%
DCCの副生成物のジシクロヘキシルウレアは溶解性が悪く結晶としてでてくるのでろ過してからカラムするのがお勧めですが、上の例のようにそのままカラムするパターンもあるようです。
上の例ではDCCにDMAPを加えて反応させています。エステル化ではDMAPを加えることが多いです。DMAPの代わりにベンゾトリアゾールを加えることもあります。
EDCを用いたエステル化
カルボン酸(9.44 kg)アルコール(11.8 kg)DMAP(1.22 kg)DMF(47 L)の溶液にEDC塩酸塩(14.0 kg)を5~10°Cで加えてそのまま2時間撹拌した。 反応後冷却しながら、AcOEt(472L)とH2O(94L)を加えて分液(重曹水、塩水)ヘプタンを加えて共沸、結晶化させて目的物を96%で得た。
EDCは分液で取り除けることから、DCCよりも便利です。カラムなしでキログラムスケールにも適応できます。
第三級アルコールのエステル化
第三級アルコールのエステル化は進行しにくいことが知られています。
EDCを使った方法で第三級アルコールのエステル化を進行させるためには、HOBtとDMAPの組み合わせが有効であることが報告されています。
報告された方法では、カルボン酸 / EDC / HOBt /DMAP/ ROH=1:1:1:4:4、クロロホルム中で反応させる方法が有効であるという報告があります。
DMAPを触媒量ではなく4当量も入れるのがポイントですね。逆に8当量も入れると副反応が起こるようです。
反応条件はカルボン酸、EDC、HOBtをクロロホルム中室温で30分間撹拌したのち、アルコール、DMAPを加えてリフラックスします。
Morales-Serna, José Antonio, et al. “Using benzotriazole esters as a strategy in the esterification of tertiary alcohols.” Synthesis 2010.24 (2010): 4261-4267.