水素化ジイソブチルアルミニウム (DIBAL還元) はTHFやヘキサン中の溶液として販売されている還元剤で、LiAlH4と同等の還元力を持っていますが、カルボン酸の還元はできないなど若干LiAlH4とは異なる反応性を持っています。
水素化ジイソブチルアルミニウム DIBAL還元とは?
水素化ジイソブチルアルミニウムはDIBALなどと略され、有機合成でよく利用される還元剤の一つです。LiAlH4についで強い還元力を持っています。LiAlH4と反応性が異なる点もありますが、そのほかにも、
- 有機溶媒への溶解性が高い
- 溶液状態であるため計量しやすい(体積で)
などの特徴があります。LiAlH4と同様に溶液は空気中で発火しやすいので注意します。
LiAlH4との反応性の違いや特徴
アセチレンとの反応
アセチレンにcis-付加してヒドロアルミニウム化します。加水分解すればオレフィンにヨウ素で処理すればヨウ素化などが可能です。
エステル・ニトリルの部分還元
LiAlH4と異なる点として、エステルの部分還元が可能であるという点です。エステルに対して1当量のDIBALを低温条件で用いれば、アルデヒドで止めることが可能です(ラクトンはラクトールに還元されます)。ニトリルも同様に1当量で用いればイミン(加水分解でアルデヒド)に部分還元することが可能です。
エステルの還元でアルデヒドに導くのはアルコールの混合物となることが多く難しいのでワインレブアミドとして還元するか、アルコールに還元後、酸化してアルデヒドとすることが多いようですが、化合物によっては結構高収率で得られるものもあります。
ニトリルに関しては高収率でアルデヒドを得ることが可能です。
エーテルとの反応
脂肪族エーテルは反応しにくいですが、芳香族エーテルは還元されます。芳香族のメトキシ基はDIBALと70℃程度の条件で反応させることによりエーテル結合が切断され、フェノールに変換されます。
アセタールの切断
ジオールの保護にアセタールは良く利用されますが、このアセタールをDIBALによって処理すると、片側だけ脱保護されてアルコールとエーテルが生成します。一般に立体障害の大きなアルコール側がエーテルとなります。
DIBALを使った還元反応の例と条件
DIBALによる還元はLAHと同様にエステルの還元によく利用されます。LAHでは不溶物が出てくるので、DIBALのほうがその点後処理が楽で良いかもしれません。ケトンの還元、エステルの部分還元、ニトリルの部分還元、アセタールの切断などに利用されます。
エステルの還元からの酸化(DMP)
4-ヨード-3-メトキシ安息香酸メチル(1.00g,3.4mmol,1.0当量)、 DCM(34mL)を乾燥したフラスコに添加し、-78度に冷却して DIBAL(トルエン中1.5M,5.2mL,7.8mmol,2.3当量)を冷却しながら添加した。添加終了後、反応混合物を室温に温め1時間撹拌後、HCl水溶液(0.5N,30mL)および飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液(20mL)を加えて混合物を室温で1時間撹拌した。有機層を分離し、水層をDCM(2×50mL)で抽出した。有機層を食塩水の飽和水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮後、クルードをDCM(30mL)に溶解し、デスマーチン試薬(2.18g,51mmol,1.5当量)およびNaHCO3(0.43g,5.1mmol,1.5当量)を室温で加えた。 1時間後、Na2S2O3の飽和水溶液(30mL)を加え、そして反応混合物をDCM(3×30mL)で抽出した。後処理を行いカラムで精製して目的物を94%で得た。
この反応ではエステルを一度アルコールまで還元した後に、デスマーチン試薬で酸化してアルデヒドを得ています。メトキシ基は低温条件では外れず、またヨウ素も外れません。
エステルの部分還元
オルトエステルを不活性雰囲気下で乾燥DCMに溶解し、−78℃に冷却し、1M DIBAL in DCMを反応混合物に非常にゆっくりと滴加し、−78℃で2時間撹拌した。クエンチ後後処理、カラムをして目的物を82%で得た。
この反応では、低温で反応させることによってエステルの部分還元を達成しています。αβ不飽和エステルのオレフィンは還元されていません。オルトエステルも影響を与えずにアルデヒド体を得ています。
アセタールの還元的切断
原料(1.5g,11.5mmol)とDCM(150mL)の溶液に-20度で15分間かけてDIBAL(46mL,トルエン中1M溶液)を滴下して加えた後2時間同じ温度で撹拌した。後処理後、カラム精製を行い目的物を81%の収率で得た。
ベンジリデンアセタールをDIBALを使ってアセタールのC-O結合を切断しています。一般的に立体が大きい側のアルコールは切断されません。ベンジリデンアセタールを使用すると片方をベンジル基で保護された状態にすることができます。アルキンは影響を受けていません。
反応機構
反応機構はLiAlH4と同様の機構で反応すると考えられています。反応機構については以下の記事を参考にしてください