生体分子には脂肪酸等カルボン酸を持つものが多いです。これらの物質はUV検出が困難なことが多いため、蛍光誘導体により検出感度をあげる方法がとられます。
カルボン酸の蛍光誘導体化はカルボン酸と反応しうるベンジルハライド、ジアゾメチル基、及びアミン等の官能基との反応により達成します。
カルボン酸は他の求核性官能基と比べて反応性が低いため誘導体化の足がかりとして利用するのは難しいです。
アミンなどの官能基がある場合はそちらを利用したほうがよいかもしれません。
カルボン酸の蛍光誘導体化
カルボン酸を含む生体分子としては、各種アミノ酸及びその代謝物や脂肪酸やプロスタグランジンなど結構たくさんあります。
極性官能基は反応の足がかりとして利用できますが、アミン等と比較してカルボン酸は反応性が乏しいため選択性が低いです。
カルボン酸を標的とする反応の多くはアミン、アルコール、チオールなども反応してしまうので考慮していおきましょう。
こめやん
実際に脂肪酸はUV吸収が無いまたは弱いためUVでの検出が困難でカルボン酸くらいしか標的官能基が無いのが事実です。
カルボン酸の蛍光誘導体化試薬
HPLCのためのカルボン酸の蛍光誘導体化試薬の多くはカルボン酸との反応前でも蛍光を持っているためプレラベル化試薬です。
カルボン酸の蛍光誘導体化は2種類の反応形式で行います。
- カルボキシラート(COO-)の求核攻撃で置換する (エステルを作る)
- カルボン酸に対する求核付加により縮合 (酸アミドを形成)
です。
蛍光ラベル化の足がかりとなるアミンやアルコール等の反応性の高い官能基と比べてカルボキシラートアニオンは共鳴安定化により求核性が低くなっています。そのため、蛍光誘導体化試薬が他の官能基と反応することがあるので注意しましょう。
反応性が低いことから、脱離基には臭素を始めとして、強力な脱離能をもつジアゾ基やトリフルオロメタンスルホナート(OTf)などを利用します。
また、2つ目の反応である求核付加(縮合)で合成する方法もなります。カルボン酸はアミンあるいはチオールと反応してアミド、チオアミドを生成します。一般的にカルボン酸の縮合反応はよく進行し、信頼性が高いですが、分子内にチオールやアミンがあるとそれが反応してしまうので注意です。
各種蛍光誘導体化試薬の特徴
Br-Mmcは携行弾としてクマリンを使用した誘導体化試薬で、HPLC分析において初めて利用された蛍光誘導体化試薬であるといわれています。
クマリンの1位、4位が窒素に置換した6,7-ジメトキシキノキサリノン(Br-DMEQ)はBr-Mmcよりも長波長の蛍光を持ち(450nm)100倍高感度だと言われています(数fmol)。
フタルイミド径の試薬NE-OTfなどは大きいストークスシフトを持ちますが、蛍光が環境応答しやすいという欠点があります(疎水環境で明るい)。
ADAMなどジアゾ基は優秀な脱離基ですが、不安定な化合物です。ADAMは分子量が小さい脂肪酸は副生物との分離が困難なことがあるので気をつけましょう。ADAMよりも蛍光強度が約5倍大きく、安定性が高いピレンのジアゾメタン(PDAM)が代替できます。
アミンやチオールと縮合させる戦略ではカルボン酸を塩化チオニルなどによって酸塩化物に変換した後に反応させることでアミド化できます。カルボジイミドなどの縮合剤によるラベル化も行われます。