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ブラウンヒドロホウ素化反応 アルケンをアルコールに変換

アルケンをアルコールに変換する方法の代表格がブラウンヒドロホウ素化です。

開発者のH.C.ブラウンはホウ素化学を発展させた代表的な人物で、有機ホウ素化合物を用いた鈴木宮浦カップリング反応で有名な鈴木先生もブラウン博士の元で博士研究員として働いていました。

本記事ではブラウンヒドロホウ素化の応用例の一つとしてアルコール合成について紹介します。

ブラウンヒドロホウ素化とは?

ノーベル賞受賞者のH.C.ブラウンによって開発されたアルケンをホウ素化する反応です。得られたアルキルボランは酸化することによって、アルコールに変換することができます。酸化条件は過酸化水素と塩基をよく用います。

Enwiki [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/)]




ヒドロホウ素化の反応機構

アルケンへの付加反応といえばマルコフニコフ則です。

マルコフニコフ則は水素がアルキル置換基の少ないほうに結合するというルールで、中間体のカルボカチオンの安定性が関与しています。

アルケンへの付加反応

アルケンへの付加反応

この付加反応のルールにのっとるなら、ヒドロホウ素化も同じように進行しそうですが、ヒドロホウ素化は逆マルコフニコフ則といって置換基の多いほうに水素が結合し、ホウ素はアルキル置換基の少ないほうに結合します。

ヒドロホウ素化の機構

ヒドロホウ素化の機構

ヒドロホウ素化でこのような選択性が生じる理由の一つとしてホウ素の電気陰性度が低く、水素が負電荷を帯びています。四中心遷移状態を取ったときにホウ素が置換基の少ない炭素のほうに位置したほうが有利なため、逆マルコフニコフ則が成立するという説があります。

ヒドロホウ素化の条件

ヒドロホウ素化ではボラン(BH3)が必要ですが、ボランは反応性が高く通常は二量体のジボラン(B2H6)の状態になっています。しかしこのままでは反応性が悪いので、モノボラン体とするため、THF錯体(BH3・THF)やジメチルスルフィド錯体(BH3・SMe2)を用いることが多いです。ジメチルスルフィド錯体のほうが安定ですが、ジメチルスルフィド由来の悪臭が欠点です。

ヒドロホウ素化で問題なのは位置選択性です。ボラン(BH3)を使ったヒドロホウ素化の選択性はあまり高くなく、マルコフニコフ則型の生成物も生成します。

ヒドロホウ素化の選択性

ヒドロホウ素化の選択性

選択性を上げるには傘高いアルキルボランを用いるのが良いです。

テキシルボラン(ThexBH2)、シアミルボラン(Sia2BH)などがありますが、基本的には9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9-BBN)が選択性、空気中での安定性の面から良く利用されます。9-BBNはTHF溶液が市販され良く利用されます。固体は空気中で発火することがあります。

9-BBN

9-BBN

反応は立体的な要因も含めて反応性は4置換オレフィンが最も遅く、THF還流条件などが必要になります。ビシクロ環では立体的に空いているシン付加が進行します。

エナンチオ選択的なヒドロホウ素化をしたい場合は9-BBNとαピネンから誘導したアルパインボランを用います。


アルキルボランの酸化でアルコールの合成

ヒドロホウ素化により得られたアルキルボランを酸化することにより対応するアルコールを合成することができます。

アルキルボランの酸化方法は過酸化水素とNaOHを用いるのがスタンダードです。塩基性に弱い官能基を含む場合などはNaBO3(過ホウ酸ナトリウム)を使います。

ヒドロホウ素化でアルコール合成 塩基性

Katcher, Matthew H. et al Journal of the American Chemical Society, 133(40), 15902-15905; 2011

アルケン(55.5 mg、0.2 mmol、10:1 b:l、93% ee)テトラヒドロフラン(0.4 mL)を 0℃に冷却し、9-BBN(2.0mL、THF中0.5M、1.0mmol)を10分間かけて滴下した。 10分後室温まで温め、さらに30分間撹拌した後、40℃に加熱し8時間攪拌した。室温に戻した後、水酸化ナトリウム(3 M、0.25 mL)を滴下し、続いて過酸化水素水(水中30%w / w、0.25 mL)を滴下しました。得られた混合物を室温で1時間撹拌した後、飽和塩化ナトリウム水溶液に注いだ。抽出操作後、精製操作を行い目的物を98%で得た。

過酸化水素とNaOHは標準的な酸化条件です。メチルエステルなどのエステルがあっても平気なことが多いですが還元されたり加水分解されることもあるようです。TBS基、TES基、Boc基、Cbz基、t-Buエステル、ベンジルエーテル、クロロアルキル

ヒドロホウ素化でアルコール合成 NaBO3を用いた条件

Bowen, Edward G. and Wardrop, Duncan J., JACS, 131(17), 6062-6063; 2009

THF(32 mL)、アルケン(1.46 g、3.22 mmol)を0°Cに冷却し、9-BBN(12.88 mL、6.44 mmol、THF中0.5 M)を加え、室温に戻しながら14時間攪拌した。反応後、調製したNaBO3水溶液[ホウ酸(5.10 g)、3 N NaOH(80 ml)、30%過酸化水素(8 mL)]を加えて10分間撹拌した後、2 N HCl (80mL)を加え1時間撹拌した後、反応物をCH2Cl2(3×50 mL)で抽出し、精製操作を行い目的物を94%で得た。

過ホウ酸ナトリウムを用いることによってより中性に近い条件で反応を行うことができます。

アルコールがあってもOK

Jung, Mankil et al Journal of Medicinal Chemistry, 46(6), 987-994; 2003

アルコールが存在していてもそのままヒドロホウ素化可能です。合成の都合上2つの水酸基を区別したい場合は第二級水酸基を保護しておいてからヒドロホウ素化します。

アミンを含む例

Dieter, R. Karl et al Tetrahedron, 61(13), 3221-3230; 2005

アミンはホウ素と錯体を作りやすいです。BH3とアミンの錯体はTMSCl/MeOHなどを用いてフリーのアミンに戻します。上の例では9-BBN を用いていますが、アミンにより消費されることを考慮してBH3を加えればBH3でもヒドロホウ素化できます。

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