ヒドリド還元剤には本当にたくさんの種類があって何がなんだかわかりにくいです。有名所ではNaBH4、LiAlH4などがありますが、今回紹介する水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBHEt3)はマイナーでわかりにくくしているヒドリド還元剤の一つだと思います。
水素化トリエチルホウ素リチウムは別名スーパーヒドリドという格好良い名前をもらっています他にはLiTEBHなどと呼ばれることもあります。この試薬もかの有名なH.C.ブラウンによって発見されています。
この記事ではどこらへんがスーパーなヒドリドなのかを紹介します。
水素化トリエチルホウ素リチウムとは?
強力なヒドリド還元剤といえばLiAlH4が思い浮かぶと思います。実際に多くの還元可能な官能基を還元します。
水素化トリエチルホウ素リチウムはLiAlH4の水素原子のうち3つがエチル基に置換されたものです。
アルキル鎖は電子供与的に働くため、ホウ素上の電子密度が増加します。これによってアニオンが不安定なり、ヒドリドの反応性が向上すると考えられます。
こうした古典的でちょっとした変換でどの辺りがスーパーなヒドリド担っているのでしょうか?
なんど、ヒドリドの求核性(反応性)が段違いに向上しています。最強のヒドリド求核試薬と言われています。だからスーパーヒドリドなんですね。
例えばアルキルハライドに対するヒドリドの求核置換反応は、ブタンチオラートの14倍、BH4–の1万倍、AlH4–の400倍も反応性が高いことがBrownらによって報告されています。
Krishnamurthy, S., and Herbert C. Brown. “Selective reductions. 31. Lithium triethylborohydride as an exceptionally powerful nucleophile. A new and remarkably rapid methodology for the hydrogenolysis of alkyl halides under mild conditions.” The Journal of Organic Chemistry 48.18 (1983): 3085-3091.
LiBHEt3の反応性・官能基選択性
アルキルハライド・スルホナートの還元的水素化
高いヒドリドの求核性を持つLiBHEt3は脱離基を有する化合物を還元的水素化します。
脱離基の反応性は一般的な性質に従います(ヨウ素が最も反応性が高い)。また、トシルやメシラートも同様にヒドリド置換を受けます。機構は立体反転を伴うのでSN2機構で進行すると考えられています。
2-アダンマンタノールやネオペンチルアルコールのスルホナートを水素化します。
窒素雰囲気下、メシル体(0.38 g、1.50 mmol)の脱水THF(45 mL)溶液にLiEt3BH(9.0 mL、9.00 mmol)の1M THF溶液を-30°Cで滴下した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。反応後、0℃に冷却して水を滴下して加えてクエンチし、分液、カラム精製により木t景物を88%の収率で得た。
脂肪族メシラートは還元して水素化されます。スルホンは影響を受けません。また、二重結合も還元されずないです。
LiBHEt3(THF中1 M; 5.25 mL、5.25mmol)を脱水DMSO(5.3 mL)の基質(100 mg、0.35mmol)溶液に加え、反応混合物を50℃で24時間攪拌した。 H2O(1.5 mL)を加えてクエンチ、濃縮後、陽イオン交換樹脂カラム精製により目的物を90%で得た。
第二級のクロロアルキルも還元されます。高極性なヌクレオシドなどは溶媒としてDMSOを用いることも可能です。
アリルアルコールエーテルの水素化
アリルアルコールやアリルチオールのエーテルやハロゲン、スルフィド、スルホンは0価Pd触媒(Pd(PPh3)4)のもと異性化なしで還元されてメチル化できます。
カルボン酸誘導体との反応
カルボン酸誘導体も他のヒドリド還元剤と同様に反応します。アルデヒドやケトンは-78℃下でも還元されます。低温下で反応させたい場合は選択肢の一つです。
また、エステルに対しても高い反応性を有します。ニトリルもアミドも還元します。
カルボン酸に対しては還元性を示しません。
アリールアルケンの還元もマルコフニコフ則に従って還元されます。
参考