クリスタルバイオレットはトリフェニルメタン系の色素で紫色をしています。細菌染色で有名なグラム染色で利用される色素です。クリスタルバイオレットではグラム陰性、陽性菌どちらも染色されますがグラム陰性菌はクリスタルバイオレットの染色が保持できず洗い流されてしまうという違いを利用して2つのグループ分けを行っています。
今回はクリスタルバイオレット染色の原理について化学的な視点から説明していきます。
クリスタルバイオレット染色の原理
クリスタルバイオレットの構造や性質
クリスタルバイオレットはトリフェニルメタン系(トリアリールメタン系)の色素で3つのベンゼン環がつながった特徴的な構造をしている化合物です。
トリフェニルメタンの構造を持つ化合物には色素として利用されているものが多いです。
クリスタルバイオレットは最上段左から三番目にあります。
これらの色素は様々な用途で利用されています。
クリスタルバイオレットの3つのベンゼン環にはジメチルアミノ基があり、塩化物イオンとのイオンになっているため極性は高く水への溶解性も高くなっています。
実際に水への溶解度は4,000 mg / L at 25℃ 1) なので水には割と溶けます。
1) Green F; The Sigma-Aldrich Handbook of Stains, Dyes and Indicators. Milwaukee, WI: Aldrich Chemical Co., Inc. pp. 239-40 (1990)
クリスタルバイオレットを使った細胞染色
クリスタルバイオレットは細菌染色の色素として利用されます
。細菌には細胞の構造の違いによって
- グラム陰性菌
- グラム陽性菌
の2つに分類することができます。
グラム陰性菌は薄いペプチドグリカン層の上に脂質二重層があり(下図右)、グラム陽性菌は厚いペプチドグリカンを持っています(下図左) (下図左:グラム陽性、右:グラム陰性)グラム染色をするとグラム陰性菌は赤、陽性菌は紫に染まります。
染色の原理とは?
これはペプチドグリカンの厚いグラム陽性菌はエタノールによる色素洗浄されにくいからだといわれています。クリスタルバイオレットはペプチドグリカン層を染色します。グラム陽性・陰性菌のどちらもペプチドグリカン層を持つため、いったん染色されます。しかし後の処理で脂質層や薄いペプチドグリカン層を持つグラム陰性菌ではエタノールでクリスタルバイオレットが洗い流されて脱色してしまいます。
グラム染色でグラム陰性菌が赤いのは脱色された後にフクシンという赤い色素で染色しているからです。
したがって、薄いペプチドグリカン層を持つグラム陰性菌は赤色に染まり、厚いペプチドグリカン層を持つグラム陽性菌はクリスタルバイオレットを保持して紫色に染まります。
クリスタルバイオレット染色でルゴール液(ヨウ素-ヨウ化カリウム液)処理する理由
ルゴール液を利用する理由はクリスタルバイオレットとルゴール液が化学反応すると難溶性になり染色力が向上するからです。
グラム染色を行う手順は
- クリスタルバイオレットで紫色染色
- ルゴール液で処理(染め)
- エタノールで洗浄(洗浄)
- フクシンで赤色染色(染色)
になります。
クリスタルバイオレットで染色した後に使用するルゴール液は何の意味があるのでしょうか?
ヨウ化カリウム溶液にヨウ素を加えると三ヨウ化物イオン(I3–)が生成します。
この三ヨウ化物イオンは溶液中でクリスタルバイオレットの塩化物イオンと置き換わることで三ヨウ化物イオンとの錯体になります。ヨウ化物イオンは塩素よりも大きく水溶性が大きく低下します。これによってペプチドグリカン層のクリスタルバイオレットは水で流されにくくなります。
Davies, J. A., et al. “Chemical mechanism of the Gram stain and synthesis of a new electron-opaque marker for electron microscopy which replaces the iodine mordant of the stain.” Journal of bacteriology 156.2 (1983): 837-845.