カルボン酸を脱炭酸することによりハロゲン化アルキルを合成する方法はアルコールから変換する方法よりも利用機会は少ないかもしれませんが、アルドール縮合などにより増反するなどの場合にはカルボン酸誘導体をアルコールに変換してからハロゲン化するよりも少ないステップで合成できます。
カルボン酸のα位ハロゲン化は進行しにくい?
カルボン酸はカルボキシレートの共鳴によってカルボニルの電子求引性が低下し、α位のプロトンの酸性度が低くなっているため、ケトン類と比べて反応性が低いです。そのため、カルボン酸を酸無水物や酸ハロゲン化物に変換してから(またはin situ)ハロゲン化することで達成します。
三塩化リンや三臭化リン、塩化チオニルなどを使って対応する酸ハロゲン化物に変換しながら臭素や塩素を作用させてハロゲン化します。
エステルはカルボン酸よりもハロゲン化が起こりにくいです。
ハンスディーカー反応 Hunsdiecker反応
ハンスディーカー反応はカルボン酸の銀塩に対して臭素やヨウ素などの単体ハロゲンを作用させると脱炭酸を伴ってハロゲン化する反応です。1861年にボロディンによって報告されました。
脱炭酸を伴うので、一炭素減炭することに注意です。
反応機構はラジカル機構で進行していると考えられているようです。
臭素を用いた臭化アルキルの合成は比較的高収率に得ることができます。その一方で無水条件下で行わないと収率が低下すること、第二級、第三級ハライドの合成には向いていないことが欠点でした。
タリウム塩を用いると改善しますが、タリウムの事件などもあり、毒性や入手性に難があります。
近年Ag(phen)2OTfを用いた改良方法が報告されています。
Wang, Zhentao, et al. “Silver-catalyzed decarboxylative chlorination of aliphatic carboxylic acids.” Journal of the American Chemical Society 134.9 (2012): 4258-4263.
Tan, Xinqiang, et al. “Silver-catalyzed decarboxylative bromination of aliphatic carboxylic acids.” Organic letters 19.7 (2017): 1634-1637.Xuan, Jun, Zhao‐Guo Zhang, and Wen‐Jing Xiao. “Visible‐Light‐Induced Decarboxylative Functionalization of Carboxylic Acids and Their Derivatives.” Angewandte Chemie International Edition 54.52 (2015): 15632-15641
Kochi反応
カルボン酸に対して四酢酸鉛と塩化リチウムを利用して塩化アルキルを合成する反応をKochi反応といいます。Kochiはハンスディーカー反応の類似反応です。同様に脱炭酸を経由してハロゲン化されます。
表題の図ですが、
R-CO2H → R-CH2X
と書くと、通常「カルボン酸誘導体をアルコールに変換してからハロゲン化」
R-CO2H → RCH2OH → R-CH2X
になりますね。
この記事の主題は脱炭酸ハロゲン化となっているので
R-CO2H → R-X
がよいと思われます。
また、
「カルボン酸を脱炭酸することによりハロゲン化アルキルを合成する方法はアルコールから変換する方法よりも利用機会は少ないかもしれませんが、アルドール縮合などにより増反するなどの場合にはカルボン酸誘導体をアルコールに変換してからハロゲン化するよりも少ないステップで合成できます。」
という記述について、
アルドール縮合での増炭がR-Xとどうつながるのかが私には分からず、
R-CO2H → R-CH2Xのステップ数とR-CO2H → R-Xのステップ数(つまり異なる構造の目的物へのステップ数)を比べているように読めたのですが、思い違いをしておりましたらお知らせください。なお、「増炭」が「増反」になっています。
不躾なコメント恐れ入ります。