極性転換(umpolung:極性変換とも言う)は本来の極性を逆転させる反応です。本来は+にしかならない反応部位をマイナスに転換することでこれまでの有機化学反応では達成できなかった反応が可能になります。
その例としてカルボニル化合物を1,3ジチアンとすることで極性転換する例を紹介します。
カルボニルを極性転換してアシルアニオン等価体として利用!
カルボニル基を持つ化合物には酸塩化物、ケトン、アルデヒドなどがありますが、共通する性質としては、電気陰性度の高いカルボニル酸素によってカルボニル炭素が電子不足になっていて、求核攻撃を受けやすいという性質です。
カルボニル炭素に対する求核剤の攻撃は起こりますが、逆にカルボニル炭素から電子不足な求電子剤への攻撃は起こらないというわけです。
もしもケトンをアルキル化したい場合は、R-Liのような炭素アニオン求核剤を使ってカルボニル炭素に求核置換する方法でアルキル化します。
極性転換はこのカルボニル炭素を-に、求核種に変換する反応です。
1,3ジチオアセタール化することによって硫黄原子によるカルボアニオンの安定化作用が働いてカルボニル炭素の水素が引き抜かれやすくなります。といってもブチルリチウム等の強塩基が必要ですが。
生成したカルボアニオンはもともと+だったカルボニル炭素の真逆の性質をもっており、アルキルハライドに求核攻撃してアルキル化が可能です。
このようにチオアセタール化することでアシルアニオンに相当する化学種を発生することができます。
ジチオアセタールを使ってケトン合成
通常はアルデヒドを用いてケトンを合成する場合はアルデヒドに対してブチルリチウムのような炭素求核種を使ってアルキル化した後に第二級アルコールを酸化して得ます。
アルデヒドをジチオアセタール化することによってブロモアルキルを使ってアルキル化できます。
ジチオアセタールを用いた方法の利点は
- アルキルハライドのような豊富なアルキル化源を用いることができる
- ケトンをチオアセタール保護した状態で得られる
があげられます。
一方で欠点としてはチオアセタールの脱保護に重金属などを用いる必要があります(改良法、代替法はいくつかある)。