ウィルキンソン触媒はオレフィンの接触還元に利用します。
Pd/Cを用いた接触還元法と比べて、カルボニル基やニトロ基などを還元しないのが利点です。
また、ウィルキンソン触媒はトリフェニルホスフィンによる立体障害が大きいので、嵩高いオレフィンは還元されにくく、立体的に空いているオレフィンを選択的に還元します。
ウィルキソン触媒の特徴
ウィルキンソン触媒はトリフェニルホスフィンとロジウムからなる均一系の接触還元触媒です。
ウィルキンソン触媒は均一系触媒研究で有名なノーベル賞受賞者ジェフリー・ウィルキンソンによって開発されました。
均一系触媒であるウィルキンソン触媒はPd/Cなどに代表される不均一系触媒とは異なり、溶媒に溶解します。
均一系触媒は濾過によって容易に取り出して再利用することは難しいですが、一分子で反応に関与することから、反応の選択性が得やすく、穏やかな反応性を示すのが利点です。
粉末は赤色をしていおり、ベンゼンやジクロロメタンなどの溶媒に溶解し、水素を通すと錯体が水素化されて黄色に変色します。詳しくは反応機構の章をご覧ください。
ウィルキンソン触媒を使った還元反応
溶媒はトルエンといった炭化水素系溶媒からクロロホルム、ジクロロメタンといったハロゲン系溶媒、酢酸などのプロトン性溶媒も利用可能です。
反応ではベンゼン/メタノール系が良く利用されているようです。
ニトロ基とオレフィンはウィルキンソン触媒によって選択的にオレフィンの還元が可能であり、溶媒効果は単独ではTHFが最もよく、さらにプロトン性のt-BuOHを添加することで加速した。
General Procedure:脱気した溶媒に基質0.14Mとなるように溶解し、4%ウィルキンソン触媒を加えて水素雰囲気下、室温で撹拌し、アルミナで濾過し、エーテルで洗浄、濃縮後、カラム精製する。
Jourdant, A., González-Zamora, E., & Zhu, J. (2002). Wilkinson’s catalyst catalyzed selective hydrogenation of olefin in the presence of an aromatic nitro function: a remarkable solvent effect. The Journal of organic chemistry, 67(9), 3163-3164.
触媒に関すること
ウィルキンソン触媒(RhCl(PPh3)3)は酸素に対して敏感なため注意する。ウィルキンソン触媒のように水素と反応しやすい金属錯体を取り扱う時は、酸素との反応に注意する。溶媒は脱気したほうが良いです。
また、酸素以外にもハロゲン、リン、硫黄、一酸化窒素などと反応するので取り扱いに注意します。ピリジンやアセトニトリルも反応を阻害するので注意しましょう。
触媒が死んでいるかどうかは溶媒に溶かした時の色や水素を通じたときの色の変化を観察して確認します。
ウィルキンソン触媒上の塩素がBrやIに置換しているものがありますが、一般的にヨウ素が最も反応性が高いです。
Cl<Br<I=1:14:100(水素の酸化的付加速度)
Chock, P.B, J.Am.Chem.Soc., 1966, 88, 3511
ホスフィンリガンドは電子供与性のアリールを持つものほど活性が高いです。
反応の選択性
ウィルキンソン触媒の官能基選択性は高いです。
- ケトン
- カルボン酸
- エステル
- アミド
- アゾ
- ニトリル
- ニトロ
- クロロ
などは影響を受けません。アルデヒドは反応するので注意します。
ウィルキンソン触媒は、立体障害の小さいアルケンを優先的に還元します。立体障害の大きいアルケンは還元しません。
ウィルキンソン触媒触媒による水素化はcis-付加します。
末端オレフィンへの選択的水素化はRhH(CO)(PPh3)3を用いると良いです。
反応条件
ウィルキンソン触媒はバートン塩基(2-tert-Butyl-1,1,3,3-tetramethylguanidine)を加えると反応が加速することが報告されています。
Perea‐Buceta, Jesus E., et al. “Diverting Hydrogenations with Wilkinson’s Catalyst towards Highly Reactive Rhodium (I) Species.” Angewandte Chemie International Edition 54.48 (2015): 14321-14325.
オレフィンの還元条件
オレフィンの還元は立体障害が少ないものが優先的に還元されます。
原料(163 mg、0.35 mmol)のベンゼン(10 mL)溶液にRh(PPh3)3Cl (34.2 mg、0.037 mmol)を加え、混合物を水素で3回脱気し、反応混合物を水素雰囲気下、70℃で3時間撹拌した。反応後濃縮、カラムにより目的物を95%で得た。
3つのオレフィンがありますが、還元されたのは六員環上の二置換オレフィンのみです。不飽和カルボニルのオレフィンは通常還元されにくく、さらに4置換で立体障害も大きいです。また、5員環のオレフィンは3置換でTBS基もあるため還元が進行しにくい
反応機構
ウィルキンソン触媒は水素と反応して酸化的付加をすると溶媒が付加した6配位状態を取っていることがNMRより確認されています。