突然変異とはDNAやRNAなどの遺伝物質に起こる意図しない変化のことです。
突然変異と聞くと外見の変化を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、必ずしもそういった変化が起こるわけではないです。
- 突然変異の種類
- 突然変異が与える影響
これらを本記事では紹介していきます。
突然変異の種類
突然変異はDNAやRNAなどの遺伝物質に起こる変化です。
具体的にはDNAやRNAを作っている化学物質が変化します。
突然変異は5種類に分類される
- 置換
- 挿入
- 欠失
- 重複
- 逆位
の5種類に分けられます。
5種類のうち置換が最もよく見られます。
置換はゲノム上に存在するヌクレオチド(塩基)が別のものに置き換わる変化です。
- 置換 – 塩基が別の塩基に入れ替わる
- 挿入 – 塩基が挿入される
- 欠失 – 塩基が欠損する
- 重複 – 塩基が重複する
- 逆位 – 部分的な配列の逆転
単語でみると想像しやすいかもしれません
「とつぜんへんい」という文字列が配列とします。(本当はATGCの4つですが…)
- 置換 – とつぜんへんい → とつぜんぜんい :へがぜに置換
- 挿入 – とつぜんへんい → とつぜんへいとんい :い,とが挿入
- 欠失 – とつぜんへんい → とぜんへんい :つが欠失
- 重複 – とつぜんへんい → とつぜんへんいへんい :へんいが重複
- 逆位 – とつぜんへんい → とつぜんいんへ :へんいが逆位
こうやって文字が変化してしまうと本来の意味がわからなくなりますよね
DNAは設計図ですから意味が変わったままたんぱく質を作ろうとすると変異した場所によっては全く機能しないたんぱく質になったりします。
置換ー突然変異
置換はDNAあるいはRNA上の核酸塩基が別の核酸塩基に置き換わる突然変異のことです。とりわけ、一つのヌクレオチド上の塩基が置換されることを「点突然変異」または「1塩基置換」と呼びます。遺伝子上に点突然変異が起こると作られるタンパク質のアミノ酸が変化します。突然変異による影響は変異が起こる位置によって変化します。重要な位置のアミノ酸が変化してしまうとタンパク質の機能が失われる可能性もあります。
置換の原因
置換は複製の過程で生じることが多いです。
- DNAポリメラーゼのミス(校正機能があるため極めて低確率)
- 損傷塩基を鋳型としたDNA合成
- 修飾ヌクレオチド(核酸塩基上の化学変化、脱アミノ化、酸化、メチル化)
置換によって起こりうるコドンのパターン
遺伝子上の塩基配列が3つずつで一つのアミノ酸をコードしています(コドン)。一つの塩基が別の塩基に置換した場合もともとのコドンとは別のコドンに変化します。この変化の仕方には4種類あります。
- サイレント変異(コドンが指定するアミノ酸が変わらない)
- シノニマス変異(コドンが指定するアミノ酸が変化したがタンパク質の機能は変化しない)
- ミスセンス変異(コドンが指定するアミノ酸が変化し、タンパク質の機能が失われる)
- ナンセンス変異(コドンが指定するアミノ酸が変化し、終止コドンになる)
1~4にいくにつれて変異が引き起こす影響が大きくなります。
サイレント変異とは?
コドンが変化しているのに(1塩基が別の塩基に置換しているのに)指定するアミノ酸が変化しないのは、一つのアミノ酸を指定するコドンが複数あるからです。
例えば、グリシンはGGA,GGC,GGU,GGGの4種類あります。
そのため、たとえばGGAがGGC(AがCに置換)に変化しても指定するアミノ酸は同じグリシンです。
ですからこの変異は起きてもアミノ酸はもちろんタンパク質の変化も起こりません。
変異が起きても結果に影響しない、気づかないのでサイレント変異です。
シノニマス変異とは?
一塩基置換によって指定するアミノ酸が変化したが、その変化したアミノ酸がタンパク質に組み込まれてもタンパク質の機能が変化しなかった変異をシノニマス変異といいます。
タンパク質の機能に関係ない部分や似たようなアミノ酸に運良く置換された場合はタンパク質の機能は変化ないので、シノニマス変異は影響が少ないです。
ミスセンス変異とは?
ミスセンス変異では、塩基が置換したことによってコドンが指定するアミノ酸が変化し、さらにその変化したアミノ酸がタンパク質に組み込まれた結果、そのタンパク質の機能が失われてしまった変異をミスセンス変異といいます。変異が起こった場所がタンパク質の機能に発揮に重要な場所だった場合にこのようなことが起こります。
ナンセンス変異とは?
塩基の置換によって普通のコドンが終止コドンに変化してしまった変異をナンセンス変異といいます。
UAU(チロシン)→UAG(終止コドン)のようにウラシルがグアニンに変化すると本来のチロシンが終止コドンになります。
終止コドンが指定されると例えタンパク質が半分までしかできていなかったとしてもそこでタンパク質合成が中断されてしまいます。
つまり、配列の最初のほうでナンセンス変異が起こると、まだほとんどタンパク質ができていないのに途中で中止されるため置換の中で影響が大きいです。
イントロンでおこる一塩基置換(点突然変異)
ゲノム上で遺伝情報が含まれている部分はエクソンと呼ばれています。一方で遺伝情報が含まれていない部分をイントロンと呼ばれています。
このイントロン上で点突然変異が起きた場合はタンパク質がコードされていないので影響はありません。
プロモーター上で起こる一塩基置換(点突然変異)
プロモーターは遺伝子の上流領域にある転写開始に関わる領域です。この部分で点突然変異が起こるとDNAからRNAを作り出す「転写」が行われなくなってしまいます。プロモーター領域の突然変異は大きな影響を与えます。
挿入と欠失
置換による点突然変異はその起こる場所によって影響が大きかったりそうでもなかったりします。
しかし、挿入や欠失は置換とは違って与える影響が非常に大きいです。
なぜならコドンの塩基の3つのセットが挿入や欠失によって変わってしまうからです。
AAU-UCU-CAG-UAA
という配列があったとします。
コドンがアミノ酸に対応していますので、4つのアミノ酸に対応しているとしましょう(最後は終止コドンですが)
もし点突然変異が起こると
CAU-UCU-CAG-UAA
最初のコドンが変化するので1つのアミノ酸が別のアミノ酸になりますが、他3つは大丈夫です。
しかしここで挿入があったとします。
CAAU-UCU-CAG-UAA
するとコドンの組み合わせが変化します。
CAA–UUC-UCA-GUA-A
欠失でも同じくコドンの組み合わせが変化しますよね。
つまり一個の塩基の挿入が全体に影響を与えてしまうのです。
ですから挿入や欠失の影響は大きいです。
一塩基置換によって起こる疾患の例
一塩基置換が原因で起こる疾患としては、鎌状赤血球症が有名です。
鎌状赤血球症はアフリカや地中海沿岸などに分布し、黒人を中心に発症している病気です。
鎌状赤血球症では酸素供給が滞るので貧血症状がでます。
マラリアの流行と関わりがあり、鎌状赤血球症のほうがマラリアに対しては生存に有利に働くようです。
鎌状赤血球が生じるのは、一塩基置換が起こることによって、ヘモグロビンのβ鎖の六番目のアミノ酸であるGluがValに変化することが原因です。
アルビノとの関係
突然変異によって生じるものは全てが目に見えて起こる変化ばかりではないことは上で述べたとおりです(サイレント変異など)。一般的にはアルビノなどの目に見えて起こる変化のことを指すことが多いかもしれません。アルビノは黒色の色素であるメラニン合成に関連する遺伝子に対して突然変異が起こった場合に起こることがあります。