SES基とは
SES基とは(2-トリメチルシリル)-エタンスルホニル基(2-trimethylsilyl-ethanesulfonyl)の略で1986年にワインレブらによって開発されたアミンの保護基です。トシルやメシル基と同様にスルホニルアミド系の保護基ですが、フッ化物イオンによって簡単に脱保護できるという特徴があります。水酸基の保護基として良く使用されるTBS基と脱保護条件が被ってしまいますが、うまく使えばとても便利です。Weinreb, S. M., et al. Tetrahedron Lett. 1986, 27, 2099.
特徴・利点
SES基の利点や特徴は
- 脱保護の後処理が楽(揮発性生成物:F-TMS, ethylene, SO2)
- 安定性が高い
- 反応例が豊富
- 低コスト
です。還元条件を使用しないのであれば良い選択肢となります。ただし酸や塩基条件は過激な条件などでは外れてしまうことも多いので確認する必要があります。
反応機構
反応機構ー保護
保護の反応機構は単純でアミンがスルホニルクロライドに攻撃するのみです。当量のHClが生じるのでトラップ用の塩基を添加したほうが良さそうですね。
反応機構ー脱保護
脱保護はフッ化物イオンにより行います。ケイ素への親和力の高いフッ素がケイ素を攻撃し、電気陰性を帯びたケイ素からの電子押し出しに伴うエチレン、二酸化硫黄の脱離を経て脱保護されます。アミン以外の副生成物は全て揮発性であるため精製が容易です。(フッ化物イオン源による)
反応条件-保護
保護条件例1
通常のアミンに対してはトリエチルアミンを塩基として用いて、SES-Clを小過剰に用いて反応を行うことで保護体が得られます。Matzanke, N., et al. J. Org. Chem.1997,62, 1920.より引用
保護条件2
二級アミンに対しても少し多めにSES-Cl(1.5 eq)を用いれて反応を行えば反応が進行します。Weinreb, S. M., et al. Tetrahedron Lett. 1986, 27, 2099.より引用
保護条件3
アニリン類は塩基にNaHを使用したほうが収率が上がります。Weinreb, S. M., et al. Tetrahedron Lett. 1986, 27, 2099.より引用
保護条件4
電子求引性基が多いアミン類は反応性が悪く収率が低いです。塩基はトリエチルアミンのではなくNaHを使用します。Meegalla, S. K., et al. J. Med. Chem.1994,37, 3434
General procedure
アミン (1.93 mmol)とトリエチルアミン(1.5 mL 1~2 eq)を脱水DMF(2 mL: 1M)に溶解させて0℃に冷やした後、1.5 mLの脱水DMFに溶かしたSES-Cl (2.89 mmol, 1.5 eq)を15分以上かけて滴下して加えた後、0℃で1.5時間撹拌させた。反応後、水を加えて酢酸エチルで抽出し、有機層をブラインで洗浄、乾燥、濃縮し精製する。Weinreb, S. M., et al. Tetrahedron Lett. 1986, 27, 2099.より引用
脱保護反応例
SES基の脱保護はフッ化物イオンで行います。フッ化物イオン源としてはCsFを用います。SES基は酸条件に安定(TFA refulx, 6M HCl in THF reflux, BF3 in DMF 95℃)で、さらにフッ素源としてよく用いられる1M TBAF in THF refuxなどの条件においても安定です。一方でTBAF・3H2O(3eq) in MeCN refulxの条件では高収率で外れます。TBAは除去するのが困難な場合があるのでCsF in DMF条件がおすすめです。
General procedure
保護アミン (0.61 mmol)を脱水DMF(1.0 mL)に溶解し、CsF (1.96 mmol, 3.2 eq)を加えて95℃まで加熱撹拌します(9-40 h)。反応後メタノール (0.5 mL)を加えて、真空下濃縮します。その後、残渣を精製して目的物を得ます。
注意事項
- TBAF・3H2O(3eq) in MeCN refulxでも外れるがTBAの除去を考える。
- SES-Clは高価( 1g, \26,000: sigma aldrich)
- SES保護のNHプロトンはブチルリチウムやLDAで引き抜かれる。
参考文献
レビュー) Patrice R., et al. Chem. Rev. 2006,106,2269.