得られた化合物を濃縮すると固体になったので、再結晶できれいにするかと思って再結晶してうまくいけばよいですが、結晶が得られない時もよくあります。
失敗のパターンは2つあります。
全く結晶が出てこない時とオイルになってしまう時です。
今回このオイルになってしまったときにどうすれば結晶が得られるようになるかを解説します。
再結晶でオイルアウトする原因は?
再結晶をしていると「冷却して白く濁ったと思ったら、二層に分離してしまった」という経験はありませんか?
フラスコにへばりつくようにオイル状になる現象を「オイルアウト」と呼ぶようです。
オイルになった状態でも頑張って結晶化することは不可能ではありませんが、結晶化させるのは難しく、きれいな結晶が生成しにくかったり、べとついた不純物を含んだオイルが付着して純度が落ちてしまいます。
再結晶中にオイルが出てきてしまう原因は一概には言えませんが、
- 結晶の融点が低い(使用溶媒の沸点よりも融点が低いことが望ましく、好ましくは0℃以下(ドライアイス/アセトン等)で試す
- 不純物が多い。特に高極性成分であることが多い
- 過飽和しすぎ(再結晶溶媒が少ない、急激な冷却、貧溶媒の加えすぎ等)
- 高沸点極性溶媒の混入(水やDMSOなど)
が考えられます。
どうすればオイル化せずに再結晶ができる?
濃縮した時などに固体を確認している場合は再結晶できます。逆に固体になったのを確認できない場合は固体にはならない・なりにくい可能性があることを覚えておいてください。
オイル化した時に再結晶する方法としては、
- 他の精製法で純度を上げた後に再結晶する
- 揮発性成分を完全に除去する(水や高沸点成分などは共沸で除去)
- 溶媒を変更する
- ゆっくり冷却する
- 氷点下以下まで冷却する
- めちゃくちゃ攪拌する
- 種結晶を加える
- 分離した時の上清(オイルじゃないほう)を別容器にとって再結晶する
- オイルだけを取り出して減圧下放置する
- 再結晶のメソッドを変える(貧溶媒添加、蒸気拡散、単純冷却)
などがあります。最も手軽で割と有効なのは溶媒を変更する方法です。
サンプルの純度が低い場合は、カラム精製後に再結晶したほうが圧倒的に楽で早く、効果的です。
他の方法は順次試してみるしかないです。上清だけとって冷却、再結晶する方法は結構結晶が出てくることが多く効果的です。溶媒の溶解度によっては不純物しか出てこないパターンもあります。
他の精製法で純度を上げた後に再結晶する
再結晶は基本的に純度が高いほど結晶を得られやすいです。不純物が多いと結晶は得にくいです。特に不純物は着色したべたべたした飴状、オイル状などの場合が多くこれらが再結晶を邪魔してしまうことが良く起こります。
したがってサンプルが汚い場合、可能ならばカラム等で精製した後に再結晶しましょう。
得たい物質が結晶化しやすそうなのに出てこないというときは特に有効です。
揮発性成分を完全に除去する
再結晶前は真空下で揮発性成分を除去した後に行ったほうが成功率が高いです。特に高沸点な溶媒が混じっているときはそれが結晶を溶解してしまってオイルアウトを誘発する可能性があります。再結晶溶媒にもよりますが、水は有機層とは分離するためにオイル化を誘発しやすいです。
高極性の高沸点溶媒は可能ならば分液で除去するか、真空減圧下加熱して留去するか、トルエンなどを使って共沸するのが便利です。
溶媒を変更する
溶媒を変えると劇的に変化する場合があります。同じような極性の別の溶媒で試してみましょう。
4,4′-ヒドロキシジフェニル(DHDPS)の再結晶における溶媒の効果について調べた論文(K.Kiesow et al journal of crystal growth, 310, 4163-4168, 2008)では、
水/アセトン系で再結晶をした場合はオイルアウトするのに対して、水/イソプロパノール系で再結晶するときれいに結晶が得られたという報告があります。
こめやん
溶媒は似ているものでも結構違うことがある(メタノールとエタノール)ので変更して試すとよいです。ナスフラスコで再結晶を検討するとすぐに留去できるのでお勧めです。
試す溶媒は性質が違っていそうなものを選ぶとよいです。例えばTHF、アセトニトリル、トルエン、イソプロパノール、ジエチルエーテル、トリフルオロエタノール、アセトン、水、酢酸などがあります
ゆっくり冷却する
急激に冷却するとオイルアウトする例があります。再結晶になれていない人はこれが原因のこともあります。ただしオイル化しやすいものの場合はゆっくり冷却してもあまり意味がないことが多いです。例えば温めたバスごと時間をかけて冷却する方法や氷水で冷却せずに定温水で冷却する方法があります。
氷点下以下まで冷却する
結晶の融点が低い場合などは0℃では冷却温度が低すぎる場合があります。ドライアイス/アセトン(-78℃)やその他の寒剤、液体窒素などを試してみると結晶が得られる場合があります。溶媒によっては凍ってしまうことがあるので沸点・融点の低いエーテルなどを使用します。
めちゃくちゃ攪拌する or こする
「オイルが出てくる前に」あるいは 再結晶のやり方-原理やコツをわかりやすく解説! 「オイルが出てきているとき」でもめちゃくちゃ攪拌してオイルの液滴が小さくなるようにしてやると結晶化が誘発されることがあります。こうしてできた結晶の純度は低いことがありますが、もう一度再結晶をやることで純度を上げることができます。
氷水等で冷却させながら
- フラスコを揺らして攪拌する
- スターラーで回す
- 攪拌子を入れてフラスコを揺らして攪拌する
- スパーテルで激しくこする
と結晶がでてくることがあります。
種結晶を加える
種結晶を加える方法は再結晶の基本的な方法です。種結晶を加えるタイミングは白く白濁する少し前の段階で加えるのがベストです。白濁するとオイルアウトが始まって結晶の成長よりもオイル化が進行してしまいます。
上清を再結晶する
オイル化してしまった上澄みの液体を別容器に移して、冷却して再結晶すると結晶が得られることがあります。成功率は割と高めであることが多いです。
オイルだけを取り出して減圧下放置する
オイル成分を別にとってそれを減圧下放置すると結晶化が起こることがあります。ただしこの方法は不純物成分がまとわりつくので純度は下がります。結晶だけを取り出して種結晶として利用するか、もう一度再結晶してみるとうまくいくかもしれません。
再結晶のメソッドを変える
再結晶の方法には単純に冷却して再結晶する方法以外に貧溶媒を添加する方法などがあります。別の再結晶法を利用することでオイルアウトせずに結晶が得られるかもしれません。
今度、教室みたいなの開いてくださるとありがたいです。\(^o^)/最近Dr.stoneを見て科学、化学?にはまっています!化学について学びたいのでよろしくお願いいたします!
お読みいただいてありがとうございます。
今後科学を楽しく体感して学べるような教材を用意したり、教室を開く計画ですので機会があれば是非ご利用ください!