誘起効果と電界効果とは何か?酸性度を例に分かりやすく

誘起効果とは?

誘起効果はσ結合を介して伝わる電子密度の偏りが生まれる効果のことです。

原子核が電子が引きつける力が強い元素(電気陰性度)は結合を介した原子の電子を引き寄せる効果があり、
原子核が電子を反発する力が強い元素は結合を介した原子に電子を供与する効果がある。

分子の電子の偏りは酸性度といった化学的性質や化学反応の起こりやすさに影響するため非常に重要です。

  • +NH3のような電子供与性の基が与える誘起効果を+I効果
  • -Fのような電子吸引基による誘起効果を-I効果

誘起効果は距離が離れると急激に効果が薄れることが知られています。

実際にH-NMRでその効果を確認することができます。

クロロアルカンのHNMRで誘起効果

クロロアルカンのHNMRで誘起効果を確認(prediction)

-I効果を与える塩素から3原子以上離れるとケミカルシフトの影響がほとんど見られないことがわかります。


電界効果とは

電界効果は誘起効果や共鳴効果よりもマイナーですが、化学的性質に大きく影響与える場合もあるため重要です。

電界効果は空間を通して伝わる分子の分極です。似ていますが、分子の結合を介して伝わる誘起効果とは別のものです。

電界効果は分極した原子(電気陰性度の高い原子など)が物理的に近い距離にあるほど伝わりやすいです。

例えば下図のように左右どちらもCOOHとClは同じ結合距離にありますが空間的な距離が近い左図のカルボン酸の方が酸性度が高いですが、これは電界効果によるものです。

電界効果による酸性度の違い

電界効果による酸性度の違い

これが誘起効果や共鳴効果による影響ではない理由はカルボン酸から5炭素分も離れている(誘起効果はせいぜい3炭素分)、パイ共役系がつながっていないというのが理由です。

Grubbs, E.J.; Fitzgerald, R.; Phillips, R.E.; Petty, R. (1971). “The transmission of substituent effects in isomeric dichloroethano-bridged anthracene derivatives”. Tetrahedron. 27 (5): 935–944

共鳴効果

共鳴効果はπ結合を介して伝わる電子的な効果のことです。

特徴

  • 共鳴効果は誘起効果や電界効果よりも強い
  • π電子を持ち、共役系がつながっている分子に見られる
  • 距離により効果が減衰しにくい

共鳴効果は誘起効果や電界効果よりも支配的です。

共鳴効果 > 誘起効果 =? 電界効果

π電子を介して伝わるため、単結合しかないπ共役系を持たない分子では共鳴効果は見られません。

誘起効果などとは異なり、共鳴効果は共役系がつながっていれば距離が離れていても効果が落ちにくいのが特徴です。

下図は無置換の安息香酸(左)とp-ニトロ安息香酸(右)のpKaを表しています。
ニトロ基は電子求引基ですがカルボキシル基から4炭素分離れているため誘起効果はほとんど見られれず
平面なので距離的にも近くはありませんが、pKaは1程度離れています。

誘起効果による酸性度の変化

誘起効果による酸性度の変化

これは共鳴効果が関係しています。
π電子は共役している分子上を移動することができるので下図のような共鳴式がかけます。
カルボン酸の根本の炭素は電子不足(+)になっているので酸性度は上がっています。

nitro基の共鳴効果で酸性度があがる

ニトロ基の共鳴効果で酸性度が高くなる




共鳴効果は誘起効果よりも支配的である

分子中にπ共役系がある場合は誘起効果と共鳴効果どちらも現れるはずです。
p-アニス酸のpKaを見て確かめていきましょう。

p-アニス酸はメトキシ基をもつ安息香酸です。
メトキシ基は電子吸引性の酸素を持つことから誘起効果を考えると多少pKaは下がることが予想されますが、下記のように実際のpKaは高くなっています。

p-アニス酸のpKa

p-アニス酸のpKa

これは誘起効果ではなく共鳴効果による影響です。

メトキシ基の酸素にある非共有電子対がベンゼン環に流れることでカルボン酸の根本はむしろ電子豊富な状態になっています。このため、p-アニス酸のpKaは安息香酸よりも高くなっています。

p-アニス酸の共鳴効果

p-アニス酸の共鳴効果

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