エステル交換はエステルのアルコールの部分を交換する反応です。古典的な方法はフィッシャーエステル化と同様に酸触媒下あるいは塩基条件下大過剰のアルコールを使う方法で、基質適応性に難がありましたが、チタンアルコキシドによるほぼ中性条件でのエステル交換が可能になったことで有用性が向上しています。
本記事ではエステル交換反応の特徴と条件について紹介します。
エステル交換反応
エステル交換反応はカルボン酸のエステル化と同じくエステルに対してエステル化するような反応です。
触媒はフィッシャーエステル化と同様に硫酸や塩酸、p-TSAなどを用いて大過剰のアルコール存在下で還流します。
エステルとカルボン酸の間でも同様にエステル交換が起こります。この時、エステルを溶媒量用いて触媒下還流させます。
エステル交換の反応条件
エステル交換は高沸点のアルコールを用いてエステルの低級アルコールを蒸発除去させれば高収率でエステル交換体を得られます。
MS5AはMeOHを吸着できるので留去しなくても収率良く得られる。
塩基触媒は交換したいアルコールのアルコキシドが便利です。エチルエステル→ナトリウムエトキシド/エタノール、t-ブチルエステル→t-BuOK/t-BuOH
アルコキシド以外では0.1eqのKHPO4がマイルドで便利です。
T. Shinada, M. Hamada, K. Miyoshi, M. Higahino, T. Umezawa, Y. Ohfune, Synlett, 2010, 2141-2145.
また、1%程度のシアン化カリウムを触媒として加えると室温でもエステル交換が進行することが知られています。
チタンアルコキシドを触媒としたエステル交換反応
テトライソプロポキシチタン(IV)などのチタンアルコキシドはほぼ中性のエステル交換触媒として機能します。
アルコキシドの構造は交換したいアルコールの構造と異なっていてもOKです。つまりテトライソプロポキシチタンでもイソプロパノール以外のアルコールを交換できます。
酸や塩基に敏感な官能基を含むエステル体を交換できます。
エステル交換は一般的にフィッシャーエステル化などではきつい条件が必要な高級アルコール系のエステルを中性条件で、後処理が容易に変換するのに向いています。
カルボン酸→メチルエステル化(ジアゾメタン)→エステル交換(チタンアルコキシド・高級アルコール)などの経路で反応させれば中性条件でエステル化できます。
テトライソプロポキシチタンによる反応では
- アセトニド(アセトンのケタール)
- カルボニル基
- 水酸基
- TBS基
- ラクタム
などは変換されません。
メチルエステルをtert-ブチルエステルに変換すれば塩基に強いエステルに、ベンジルエステルに変換すれば酸・塩基に強いエステルに変換可能です。逆にメチルエステルに変換すれば、K2CO3などの塩基触媒下容易にカルボン酸に変換可能です。
反応条件
エステル(3.00 g、11.53 mmol)、2-ヘキシル-1-デカノール(11.18 g、46.10 mol)、およびTi(O-i-Pr)4(6.55 g、23.06 mmol)を窒素雰囲気下130℃でオーバーナイトし、溶液を冷却し、0.1 M HClで中和して沈殿した固体を濾過し、水で洗浄した。固体をヘキサンに溶解し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮し目的物を得た(6.92 g、93%)
長鎖のエステルを作るのに有用です。一般にエステル交換では高い温度で撹拌します。
分子内にアルコールがある場合は、ベンゼンなどの溶媒中でチタンテトライソプロポキシドを作用させると分子内環化してラクトンが生成します。カルボン酸に変換しなくても済むので楽です。
フェノールエステルとすることによってエステル交換しやすくする方法も考案されています。
NHCをエステル交換の触媒として利用してる例があります。
参考
1) Otera, Junzo. “Transesterification.” Chemical reviews 93.4 (1993): 1449-1470.