蒸留とは?
蒸留は、2種類以上の沸点の異なる液体混合物を蒸発、凝縮させることによってそれぞれの成分を分離・精製する操作のことです。似た言葉としては「濃縮」がありますが、これは目的とする化学物質の沸点が著しく高くほとんど揮発しないもの以外の沸点の低い成分を蒸発させる操作のことです。目的物以外の沸点の低い成分を取り除くという意味で「留去」という表現もあります。いずれも、蒸留は「分離精製操作」の意味合いが強いですが、「濃縮」や「留去」は蒸発操作による精製というよりも、不要成分を蒸発によって取り除くという意味合いが強いです。
蒸留をやる前に
蒸留はその操作によって何らかの化合物を取り出すことが目的ですから、目的化合物が蒸留操作によって壊れてしまったら元も子もありません。蒸留操作は一般的に加熱を伴うため、意図しない化学反応が起きることがあります(常温では平気でも加熱すると化学反応が起きやすくなる)。加熱による分解を防ぐためには、温度をできるだけかけないための工夫が必要です。例えば
- 圧力を下げて低い温度で沸騰させる
- 不活性ガス下で蒸留する
などがあります。留去や濃縮であれば、
- 共沸を利用する
- 反応性の低い溶媒を使う
- 凍結乾燥を利用する
- 不活性ガスを吹き付ける
という方法もあります。蒸留が向かない場合は、再結晶やカラムなど他の精製方法の検討が必要になります。
蒸留の種類
常圧蒸留
常圧蒸留は大気圧下で行うスタンダードな蒸留のことで、大体沸点が100℃以下のものに対して使います。100℃を超えるような液体に関してはあまり使わない。
減圧蒸留
減圧蒸留は系内を減圧することによって 沸点を下げて蒸留する方法です。沸点が100℃以上の物質には減圧蒸留を使います。濃縮や留去は基本的に減圧下で行うことが多いです。減圧蒸留は早く終わるのでおすすめです。
分別蒸留(分留・精留)
二種類以上の液体の混合物を蒸留によって別々に取り出す(精製)する蒸留操作のこと。分別蒸留する際には分留管という器具を取り付けることによって、蒸発ー凝縮を連続的に繰りかえされるため、精密な蒸留ができます。(蒸留したものをまた蒸留するというように繰り返し蒸留が分留管内部で起こる)
水蒸気蒸留
水蒸気を水と混じらないような揮発性の物質に連続的に吹き付けて蒸留する方法です。他の蒸留と比べて特殊なためやったことない人も多いと思いますが、特徴として、水に不安定な物質は使えませんが、沸点が比較的高い物質や100℃以上に熱すると壊れてしまうような化合物の場合水蒸気蒸留は適していますが、きれいに精製することができないのが欠点です。水蒸気を流し込む方法以外にも、水を入れてフラスコ内でグツグツ煮るという方法でも可能らしいです。冷却管は大きく長いものを利用しましょう。
蒸留のやり方
1.蒸留を始める前に
蒸留を始める前に、加熱する物質の沸点や加熱に対する安定性などを調べておきます。既知でない物質は似た物質から推測します。こうすることで、蒸留する時間を短縮したり、化合物が壊れたりするのを防ぎます。
2.蒸留に必要な器具を揃える
減圧蒸留か常圧蒸留かによって必要な器具は異なります。
減圧蒸留する場合は9のような器具を利用します。9の突起の部分に管をつけて減圧します(オイルポンプなどを使用するときは間にトラップをつけます)。蒸留の受け8及び16は蒸留フラスコ2の液面よりも低い位置に設定します。枝付きフラスコ使用しても良いですが、3のようなスリ付き分岐管を使用したほうが便利です(枝付きフラスコは非常に脆い)。画像の3の器具は管内に突起が存在する分留管の機能もあるものですが、突起がないものでもよいです。精密に蒸留したい場合などは分留管を別途接続します。
蒸留の注意事項・Q&A
1.バーナーの使用はできるだけ避ける
蒸留によって精製可能な揮発性物質の多くは可燃性のため、加熱のためにガスバーナーを使用すると引火する可能性がある。昔の実験書では平気でバーナーを使用しているが、特に理由が無いのならば、電熱式の加熱方法を使用する。火の使用は避ける。
2. フラスコに溶媒を入れすぎない
反応の時を同じように、蒸留フラスコには入れすぎると突沸したときに受け側に溶媒がいってしまう。容量の2/3以下に留める。
3. 蒸留はフラスコがカラカラになるまでやってはいけない
蒸留は液が残っていても途中で止めておく。カラカラの状態にしてしまうと不純物が混じりやすくなったり、過加熱になったりする。また、THFなどのエーテル類あるいはニトロ化物などはカラカラの状態になると爆発の危険があるので注意する。
4.各々の器具をしっかりとクランプで固定する
各器具はしっかりとクランプで固定しましょう。このときに無理な力が加わってガラスが割れないように注意します。クランプで固定する過程で、位置がずれることが多いので、固定化後に確認しましょう
5.主に脱水を目的に蒸留するとき
有機合成では、蒸留によって揮発性物質を分離する分留するというよりは、脱水を目的に蒸留することが多いです。その場合は蒸留フラスコの中に脱水剤を加えて蒸留します。脱水剤としては、ナトリウム/ベンゾフェノンやCaH2を使用することが多いです。ナトリウムはアルコール系の溶媒とは反応してしまうので使用できません。吸湿によって大量の水分が含まれている溶媒・吸湿しやすい溶媒を脱水する時は予備脱水といって予め蒸留したい溶媒にモレキュラーシーブスやCaH2を加えて一晩おいた後に蒸留します。脱水のみが目的の場合はモレキュラーシーブスを加えて一晩置くあるいは、活性アルミナのカラムを通すという方法でも目的を達成できます。
常圧蒸留の場合は不活性ガス下、減圧蒸留のときは、気圧を戻すときに不活性ガスで置換して蒸留するなどできるだけ外気に触れないように工夫します。保存容器にはモレキュラーシーブスを少し加えて置くと良いです。
Q1. 蒸留のときの加熱温度は沸点と同じ温度?
蒸留の液温は沸点の+10~20℃くらいがちょうどよい。沸点と同じ温度では沸騰しにくい。
Q2. 常圧か減圧かどうやって見極める?
目安としては100℃以下では常圧、100℃を超える場合は減圧蒸留をする。留去の場合は、早い減圧蒸留を行う。
Q3.減圧蒸留のとき毛細管(キャピラリー)を沸騰石の代わりに使うのはなぜ?
減圧蒸留のときは沸騰石は機能しないため、毛細管を引く。毛細管によって液中に気泡が発生することで撹拌効果と突沸を防ぐ効果がある。撹拌と同時に加熱ができるような装置(投げ込み式オイルヒーターやヒーター付きスターラー等)では、キャピラリーは必要ない。撹拌するだけでよいです。
Q4.初留は捨てるのはなぜ?どこまでが初留?
初留には低沸点化合物などの不純物が多いので捨てたほうがよい。目的化合物の沸点が分かる場合はその沸点に達するまでの温度で出てくるものは捨てたほうが良い。蒸留フラスコの蒸気の温度を測定して、その温度が一定になったときに留出してきたものが主留です。
Q5.蒸留の速度はどのくらいが適正?
留出の受け側の液滴の1滴の間隔が1-2秒くらいが適正の目安です。目安のため、あまりにもおそすぎる場合や早すぎる場合は調節しましょう。