ガスクロマトグラフィーはペーパークロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィーと同じく、混合物を分離するのに用いる分析機器です。
ガスクロマトグラフィーはその名前に「ガス」とあるように、分離する化合物試料は「気体」です。
こめやん
ガスクロマトグラフィーは気体を分離する機器であるため、少々特殊な点がありますが、基本原理は液体クロマトグラフィーなどと同じです。
ここでは簡単にガスクロマトグラフィーの概略を解説します!
ガスクロマトグラフィーとは?
HPLCなど液体クロマトグラフィーは植物や動物中に含まれる毒素や栄養素など様々な化学物質を分離・分析するのに広く用いられていますが、液体クロマトグラフィー(HPLC)が分析できる化学物質は「液体」か溶媒に溶ける「固体」に限られます。
無機ガス(二酸化炭素や窒素)、ブタン、アセチレンなどの気体は液体クロマトグラフィーを利用することはできません。
このような気体を分析するには「ガスクロマトグラフィー Gas Chromatography; GC」を使います。
ガスクロマトグラフィーは常温で気体でなくても、揮発性の高い化合物であれば、ガス状にすることで分析することができます。
こめやん
ガスクロマトグラフィーで分析できる化合物は
- 無機ガス (水素、二酸化炭素、窒素等)
- 低級炭化水素類(メタン、アセチレン等)
- 揮発性が高く、分子量の小さい分子
です。
固体や液体の分子はアセトン等の溶媒に溶かして希釈することで測定できます。
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ガスクロマトグラフィーの特徴
ガスクロマトグラフィーの特徴はなんといっても「気体が分析できること」です。
ガスクロマトグラフィーの特徴としては
- 気体が分析可能
- 定量分析が可能
- 感度が高い(フェムトモルオーダー ng程度でもOK)
- 理論段数が高い(分離能が高い)
- 移動相が気体
- 数十種類の混合物の分析ができる
- 様々な異性体(光学異性体を含む)が分離可能
- 沸点の違いが分離に影響する
- 様々な種類のカラムが選択可能
- 分けた後のガスを分取できる
などがあります。
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機器の概要
ガスクロマトグラフィーの装置の見た目は下の写真のような感じです。
こめやん
ガスクロマトグラフィーの主要な部品としては、試料を機械に打ち込む「インジェクター」と打ち込まれた混合ガスを分離するための「カラム(中央)」がカラムを温める「カラムオーブン」の中に入っています。
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打ち込まれた試料は上図左にあるキャリアガスによってカラムの出口方向に運ばれます。
分離されたガスは検出器によって検出された後に排出されます。
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ガスクロマトグラフィーはどんな時に使う?
ガスクロマトグラフィーは他のクロマトグラフィー中で最も高い分離能力を持っていて、比較的短時間で分析できるので、気化する化合物の分析にはガスクロを使用すると良いです。
ガスクロマトグラフィーによってどのような成分(官能基や分子量など)がどのくらいの量含まれているか?というのを調べることができます。
- 低極性・低分子量・高揮発性物質の分離
- 分離困難な混合物 (光学異性体など)
- 多成分の分離
- 微量物質の分離
使用例としては
- 石油中に含まれる成分の分析 (精製ガソリン中の成分)
- 環境に残存した農薬の分析 (農作物に残った農薬の種類と量)
- 大気汚染物質の分析
- 植物の香気成分の分析 (精油中の成分)
- 呼気・血液中の微量成分の分析
などに利用されます。
ガスクロマトグラフィーの原理
ガスクロマトグラフィーの基本原理は他のクロマトグラフィーと同じです。
注入された気体の混合物は、移動相であるヘリウムの気流によってカラム内を移動していきます。この時、化合物の性質(極性や沸点など)の差によってカラムの固定相(液相もある)との相互作用の差が生じます。
この相互作用の差を利用して混合ガスを分離していきます。
図. ガスクロマトグラフィーのカラム中の様子
ケイ素化合物のシロキサンからなる無極性の固相を持つカラムが一般的に利用されます。
この固相は表面官能基が疎水性(低極性・無極性)なため、高極性のイソプロパノールのような化合物は固相との親和性が低く、一番早くカラムから出てきます。
次に出てくる化合物はイソプロパノールよりも極性の低い酢酸エチルです。極性が幾分か低いため、固相との相互作用も大きく、より長い時間カラムに保持されます。
ナフタレンやベンゾピレンは極性が低く、さらに高沸点なベンゾピレンは気相にいるよりも固定相にいる時間の方が長くなるため、長い時間カラムに保持されて、出てくる時間が遅くなります。固相ではなく、液相のカラムを使った場合も同じです。極性の高い固定相を利用した場合は極性の高い化合物がより長く保持されます。
ガスクロマトグラフィーでは気相で化合物が運ばれるために、化合物の沸点が非常に大きく影響します。
ガスクロマトグラフィー各論
測定試料
測定試料は気体または揮発性の化合物を測定できます。またガスクロマトグラフィーでは分析中に高温に加熱するため、熱に不安定な化合物の分析はできません。
液体や固体の化合物でも測定できる・測定しやすい試料の目安は
- 分子量が1000以下
- 沸点が500℃以下
- 極性が低め
- 熱安定性が高い
液体や固体は有機溶媒に溶かして希釈してから測定します。有機溶媒としてはアセトンがよく利用されます。
気体をインジェクトするときは気密性の高いシリンジである「ガスタイトシリンジ」を使用して導入します。
注入量は測定条件によって大きく異なりますが、ガスなら1mL、溶媒なら数マイクロリットルを打ち込みます。
インジェクション (試料の導入)
液体クロマトグラフィーでは溶液をインジェクトしますが、ガスクロでは気体を導入するのが基本です。しかし、それだけでは汎用性に欠けるため、液体もインジェクトできるようになっています。
インジェクトされた溶液は高温で熱せられることによってガス化された後にカラムに移動する仕組みになっています。
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注意点は濃い試料はインジェクトしないようにすることです。
試料濃度が濃すぎると分離が悪くなったり、カラムを汚して、前に測定した試料ピークがずっと出てくるなどの不都合がおこります。
したがって、あまりにも濃い気体試料は窒素やヘリウムなど移動相を使って希釈してからインジェクトします。揮発性の液体試料をガスクロマトグラフィーで分析する場合は特に注意が必要で、アセトンなどを使って希釈してからインジェクトしましょう。
移動相
液体クロマトグラフィーでは移動相は有機溶媒(アセトニトリルやヘキサン、酢酸エチル、ジクロロメタンなど)でしたが、ガスクロマトグラフィーでは気体を使います。
移動相として使うのは
- 窒素
- ヘリウム
- 水素
などです。高価ですが分離能が高く性能バランスが良いヘリウムをよく利用します。
窒素は安価ですが、分析に時間がかかり最適な流速域が狭いのが欠点です。水素はヘリウムと同様に広い最適流速域を持っていて、安価ですが、可燃性など安全性の問題があります。
移動相の流速
移動相の流速は他のクラマトグラフィーと同じ考え方です。移動相の流速をあげるほど、分析は速く終わりますが、分離脳は低下します。
流速を下げれば時間がかかりますが、分離は良くなります。ただし、ガスクロマトグラフィーでは流速が遅すぎてもダメです。
一般的に移動相やカラムの種類によって最適な流速が決まります。
固定相(カラム)
ガスクロマトグラフィーで用いるカラムには、パックドカラムとキャピラリーカラムの二種類があります。
- パックドカラム: 短めのガラス管に固定相が入ったカラム。大容量向き、分離能はあまり高くない
- キャピラリーカラム: 十数メートルの細長いカラム。低用量向き、分離能は高い
どちらのカラムを使用するにしても、固定相の適切な選択が必要です。
基本的には極性の低いカラムを選択して、化合物の性質や分離状況によってカラムを変えて分析します。
固定相が液体のものもあり、GLC(気-液クロマトグラフィー)と呼ばれます。一般的なガスクロは気体と固定相が固体のGSC(気-固クロマトグラフィー)です。
検出器
カラムによって分離された混合ガスは、最終的に検出器を通って、分析が行われます。検出器には様々な種類があり、質量分析計(マススペクトロメトリー)であれば、分子量を知ることができます。FID、TCDという検出器が合わせてよく利用されます。FIDやTCDではガス成分がどれくらいの量が有るかを知ることができます。検出器も種類によっては分析が難しい化合物があるので、化合物の種類、性質によって使い分ける必要があります。
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