昆虫には硬い殻があります。しかし、この硬い殻は生まれた時からあるわけではありません。また、カブトムシなどもそうですが、幼虫の時はぷにぷにのやわらかい体をしています。そして、さなぎから羽化したてのカブトムシはまだぷにぷにの柔らかさを保っています。
ではいつ、どのように硬くなるのか?そのメカニズムにはある化学物質がからんでいるようです。
昆虫の硬い外骨格は体を支える骨の代わり!
秋冬になって雑木林をあるくと、いたるところにカブトムシなどの甲虫の死体がみられます。これらの死体は外側の硬い殻だけが残っていて中身は空洞なんてことは良くあります。
それだけ、昆虫の外骨格は硬くて丈夫です。
なぜ昆虫には硬い外骨格があるのか?というと
無脊椎動物の昆虫には人間などのように骨がないからです。骨のような体を支える支柱となる部分がない昆虫には代わりに硬い外骨格があります。
昆虫だけでなく、海老やカニといった甲殻類もからをもっていますね。
カブトムシの体を触ったことがあればわかると思いますが、まるでプラスチックのように硬くて、爪ではじくとコツコツと音がします。
昆虫は骨の代わりに体全体が硬い殻でおおわれているため、体を支えたりすることができます。
外骨格の成分は?どうやって硬くなるのか?
昆虫の外骨格は常に硬いままではないことをご存じでしょうか?
生き物を飼育したことがある人はわかるかもしれませんが、カブトムシもセミもコオロギもさなぎからふ化してすぐ、脱皮してすぐは体が柔らかく、時間がたつとだんだん硬くなってくるのです。
しかも最初は白っぽいのですが、時間と共に色が出てきます。
やわらかいものが硬くなっていく過程で一体なにが起こっているのか?
まるで接着剤のように時間がたつと硬化していくメカニズムを調べる研究者も世の中にいます。
ちなみに昆虫の外骨格はクチクラ(キューティクル)と呼ばれる、細胞が自身の表面にキチン(多糖類)とたんぱく質、炭酸カルシウムなどを分泌して生じる硬い膜です。人の髪の毛も似たようなものらしいです。
この成分を見ればどのようにして硬くなるのか?はわかりそうですね。
フェノールが外骨格の硬化にかかわっている!
昆虫の外骨格が硬くなるメカニズムにはいくつか説がありますが、共通する成分が「フェノール」です。
ポリフェノールなどで有名なフェノールが昆虫の外骨格から発見されています。
実はこのフェノールは反応性の高い分子であり、ホルムアルデヒドと酸触媒とで反応させると重合(たくさん連鎖的に反応)してフェノール樹脂というプラスチックができることが知られています。
フェノールはベンゼン環がマイナスになっていて、ホルムアルデヒドは炭素がプラスに分極しています。フェノールの豊富な電子(-)がホルムアルデヒドの炭素に攻撃して結合形成が起こります。生成したベンジルアルコールは酸によって脱水して+がでてきます。これにさらにフェノールが反応を繰り返すと有名なビスフェノール類が生成します。
このような反応が連鎖的に起こって巨大な分子が生成します。フェノール樹脂の構造の一部は以下のようになっていると思われます。
フェノール樹脂はプラスチックの一種であるため、硬いわけです。クスサン繭から見つかったフェノール硬化剤
昆虫の外骨格が硬くなる原因を解明するには硬くなる前後の素材から硬化にかかわる怪しい成分を見つけるしかありません。
クスサンというガがいるクスサンの繭を調べたところフェノール硬化剤がみつかりました。
クスサンの硬化前の繭からはこれまでの昆虫から見つかったものとはことなるフェノール誘導体がみつかりました。試しにこれを硬化前の繭にかけると硬くなったようです。
カマキリ卵を触ったことがある人はわかると思いますが、結構硬いんです。
このカマキリの卵を硬化させる成分として、ドーパミンのアミンがアシル化されたN-アセチルドーパミンとそれを原料にさらに反応性の高いキノンが生成します。このキノンを作り出す酸化酵素が一種の硬化酵素として考えられています。
まさか昆虫の硬化にかかわっているのがプラスチックと同じような機構というのは面白いですね。しかも神経伝達物質のドーパミンが関わっているというのは意外です。